中O【罠に陥る新妻の涼音】 第4話
中O【罠に陥る新妻の涼音】 第4話
〔通勤はどちらまで?〕
『東京駅です。赤羽で乗り換えて・・。』
〔じゃあ、混むでしょう。〕
『ええ、すごく。だからなるべく早く出るようにしています。』
〔いや、夕方もね、混んでるでしょう。特に埼京線にはスゴいのがいるらしいから気をつけたほうがいいよ。〕
『はあ…。』
〔うちの常連さんなんだけどね。やっぱりOLやってて、綺麗な顔した子なんだ。で、その子が話してくれたんだけど、三人グループでね、前と横と後ろから触られて、ひどい目に遭ったって…。〕
『気をつけます。』
涼音は笑顔で答えた。マスターの好意は嬉しかったけれど、それ以上具体的な話になるのが嫌だったのだ。
話をはぐらかされたような形になってマスターはちょっと物足りなそうな表情だった。マスターにしてみれば、もっと具体的な話をして注意を促したかったのだろう。まるで話の腰を折ってしまったようで、悪い気もしたけれど、痴漢の話はしたくない。
テーブルの上のグラスには二杯目のワインが注がれていた。『マスターは結婚されてないんですか?』話題を変えたかったこともあり、また自分の事ばかりを話していることに気が引けて涼音は訊いた。〔ははは、結婚ね。〕マスターは笑った。口髭のせいで第一印象ではさほど感じられなかったが、よく見ると整った顔立ちをしていて、笑った顔にも愛敬がある。涼音の母が男性を褒めるときに使う「人品骨柄卑しからず。」という表現が似合いそうだった。
〔僕は奥さんみたいに淋しい想いをしている人妻を慰めるのが忙しくて結婚どころじゃないな。〕
『えーっ、本当ですか?』
艶っぽい話が苦手な涼音は笑ったが、何か、不安のような複雑な動揺が胸の奥に沸き上がるのを感じていた。《例えばこんな淋しい想いをしている夜に、このマスターのような男性に誘惑されたら、なんとなくその気になってしまう人だっているに違いない。》と思った。
〔ははは、半分くらい冗談、かな。奥さんはまだ新婚だから自分で人妻って意識はないでしょう。〕
『はぁ…まだあんまり実感がないんです。働いてるし…。』
〔そうだろうね。もし浮気したくなったらいらっしゃい。奥さんなら大歓迎だよ。〕
マスターは笑って立ち上がり、窓のカーテンを締め始める。
『あ、今日はもう終わりですか?』
〔うん、少し早いけどね。今日はもう店じまい。〕
『あ、じゃあ、あの、おいくらですか?』
〔今日はいいよ、サービス。〕
『えっ、でも…。』
〔そのかわりまたご主人と来て下さい。〕
『どうもすみません。』
〔売上の計算をしてくるから、もう少しゆっくりして行くといいよ。〕
マスターは気さくにそう言うと、涼音を残してカウンターの奥に引っ込んだ。
2015/02/17
〔通勤はどちらまで?〕
『東京駅です。赤羽で乗り換えて・・。』
〔じゃあ、混むでしょう。〕
『ええ、すごく。だからなるべく早く出るようにしています。』
〔いや、夕方もね、混んでるでしょう。特に埼京線にはスゴいのがいるらしいから気をつけたほうがいいよ。〕
『はあ…。』
〔うちの常連さんなんだけどね。やっぱりOLやってて、綺麗な顔した子なんだ。で、その子が話してくれたんだけど、三人グループでね、前と横と後ろから触られて、ひどい目に遭ったって…。〕
『気をつけます。』
涼音は笑顔で答えた。マスターの好意は嬉しかったけれど、それ以上具体的な話になるのが嫌だったのだ。
話をはぐらかされたような形になってマスターはちょっと物足りなそうな表情だった。マスターにしてみれば、もっと具体的な話をして注意を促したかったのだろう。まるで話の腰を折ってしまったようで、悪い気もしたけれど、痴漢の話はしたくない。
テーブルの上のグラスには二杯目のワインが注がれていた。『マスターは結婚されてないんですか?』話題を変えたかったこともあり、また自分の事ばかりを話していることに気が引けて涼音は訊いた。〔ははは、結婚ね。〕マスターは笑った。口髭のせいで第一印象ではさほど感じられなかったが、よく見ると整った顔立ちをしていて、笑った顔にも愛敬がある。涼音の母が男性を褒めるときに使う「人品骨柄卑しからず。」という表現が似合いそうだった。
〔僕は奥さんみたいに淋しい想いをしている人妻を慰めるのが忙しくて結婚どころじゃないな。〕
『えーっ、本当ですか?』
艶っぽい話が苦手な涼音は笑ったが、何か、不安のような複雑な動揺が胸の奥に沸き上がるのを感じていた。《例えばこんな淋しい想いをしている夜に、このマスターのような男性に誘惑されたら、なんとなくその気になってしまう人だっているに違いない。》と思った。
〔ははは、半分くらい冗談、かな。奥さんはまだ新婚だから自分で人妻って意識はないでしょう。〕
『はぁ…まだあんまり実感がないんです。働いてるし…。』
〔そうだろうね。もし浮気したくなったらいらっしゃい。奥さんなら大歓迎だよ。〕
マスターは笑って立ち上がり、窓のカーテンを締め始める。
『あ、今日はもう終わりですか?』
〔うん、少し早いけどね。今日はもう店じまい。〕
『あ、じゃあ、あの、おいくらですか?』
〔今日はいいよ、サービス。〕
『えっ、でも…。』
〔そのかわりまたご主人と来て下さい。〕
『どうもすみません。』
〔売上の計算をしてくるから、もう少しゆっくりして行くといいよ。〕
マスターは気さくにそう言うと、涼音を残してカウンターの奥に引っ込んだ。
2015/02/17
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