中Y〖やり直すか?〗第4回
中Y〖やり直すか?〗第4回
第3回
確かめると言ってもプロに頼むような大げさな事では無く、妻(衛藤優奈:えとう・ゆうな:44歳)が仁美さん達と会うのを一目確認出来れば、私(衛藤直人:えとう・なおと:44歳)は元の私に戻れるのです。その日の午後に、入社以来始めて仮病を使って会社を抜け出した私は役所の前で張り込んでいて、沢山の人が出てくる中に妻の姿を見つけ、駅に先回りをしようとした時、有ろう事か妻は駅とは反対の方向に歩き出しました。
当然電車に乗って繁華街で会うと思っていたのですが、妻が歩いていく方向には私の知る限り寂れていくだけで、気の利いた店もありません。何より仁美さんや恭子さんが、車で来ない限り不便で不思議に感じたのですが、それでも妻を信じたくて、この方向に私の知らないお洒落な店でも出来て、そこで待ち合わせているのだと自分に言い聞かせながらついて行くと、妻は五百メートル以上歩いた所にあった、コンビニの駐車場に止まっていた車に乗り込んでしまいます。
私は仁美さんか恭子さんの車だと思いたかったのですが、それならこれ程離れた所のコンビニで待ち合わすのは不自然で、何より妻が乗り込む寸前、辺りを見渡す仕草を見せたのが気になり、車のエンジンがかかった瞬間、気が付くと両手を広げて車の前に立ちはだかっていました。やはり運転席にいたのは大田(和宏:おおた・かずひろ:33歳)で、助手席の妻は顔面蒼白になって固まってしまいましたが、彼は躊躇する事無く降りて来ます。
〔奥さんには、いつもお世話になっています。〕
私には、いつも妻の身体の世話になっているとも聞こえ、思わず胸倉を掴んでしまいました。私は昔から手が早く、昔を知っている友人達は、まさか私が気の弱い男だとは想像もしていないでしょうが、本当は緊迫した場面にいつまでも対峙しているのが怖く、早く決着を着けたくて先に手が出てしまうのです。その癖は今でも抜けておらず、私は右手を後ろに引いて殴ろうとしましたが、その瞬間ドアを開けて身を乗り出した妻が叫びました。
『あなた。やめて~!』
私が妻の声で我に返って殴る寸前だった手を下ろすと、彼はほっとした表情を見せますが、何も言葉が出てきません。しかし私も情けない事に、何か話せば涙が出てしまいそうで話せないのでした。仕方なく何も言えずにタクシーを拾ってその場を立ち去りましたが、タクシーの中での私は、殴れなかった自分、何も言えなかった自分、何より泣きそうだった自分が情けなく口惜しくて、身のやり場がありません。
家に戻るとまだ夢の中にいるようで、先ほどのことが現実に起こっている事とは思えませんでした。思えないと言うよりも、現実として認めたく無かったのかも知れません。私は妻を疑いながらも、本当に男と会うなどとは思っていなかったのです。それで尾行をしている時も、探偵にでも成った気分で少し楽しくさえ感じていました。私はただ妻が友人達と会っているのを確認して、妻を信用し切っていた元の私に戻りたかっただけなのです。いつしか涙が溢(あふ)れてきて、また嫌な妄想に苦しめられていました。 第5回へ
2018/01/26
第3回
確かめると言ってもプロに頼むような大げさな事では無く、妻(衛藤優奈:えとう・ゆうな:44歳)が仁美さん達と会うのを一目確認出来れば、私(衛藤直人:えとう・なおと:44歳)は元の私に戻れるのです。その日の午後に、入社以来始めて仮病を使って会社を抜け出した私は役所の前で張り込んでいて、沢山の人が出てくる中に妻の姿を見つけ、駅に先回りをしようとした時、有ろう事か妻は駅とは反対の方向に歩き出しました。
当然電車に乗って繁華街で会うと思っていたのですが、妻が歩いていく方向には私の知る限り寂れていくだけで、気の利いた店もありません。何より仁美さんや恭子さんが、車で来ない限り不便で不思議に感じたのですが、それでも妻を信じたくて、この方向に私の知らないお洒落な店でも出来て、そこで待ち合わせているのだと自分に言い聞かせながらついて行くと、妻は五百メートル以上歩いた所にあった、コンビニの駐車場に止まっていた車に乗り込んでしまいます。
私は仁美さんか恭子さんの車だと思いたかったのですが、それならこれ程離れた所のコンビニで待ち合わすのは不自然で、何より妻が乗り込む寸前、辺りを見渡す仕草を見せたのが気になり、車のエンジンがかかった瞬間、気が付くと両手を広げて車の前に立ちはだかっていました。やはり運転席にいたのは大田(和宏:おおた・かずひろ:33歳)で、助手席の妻は顔面蒼白になって固まってしまいましたが、彼は躊躇する事無く降りて来ます。
〔奥さんには、いつもお世話になっています。〕
私には、いつも妻の身体の世話になっているとも聞こえ、思わず胸倉を掴んでしまいました。私は昔から手が早く、昔を知っている友人達は、まさか私が気の弱い男だとは想像もしていないでしょうが、本当は緊迫した場面にいつまでも対峙しているのが怖く、早く決着を着けたくて先に手が出てしまうのです。その癖は今でも抜けておらず、私は右手を後ろに引いて殴ろうとしましたが、その瞬間ドアを開けて身を乗り出した妻が叫びました。
『あなた。やめて~!』
私が妻の声で我に返って殴る寸前だった手を下ろすと、彼はほっとした表情を見せますが、何も言葉が出てきません。しかし私も情けない事に、何か話せば涙が出てしまいそうで話せないのでした。仕方なく何も言えずにタクシーを拾ってその場を立ち去りましたが、タクシーの中での私は、殴れなかった自分、何も言えなかった自分、何より泣きそうだった自分が情けなく口惜しくて、身のやり場がありません。
家に戻るとまだ夢の中にいるようで、先ほどのことが現実に起こっている事とは思えませんでした。思えないと言うよりも、現実として認めたく無かったのかも知れません。私は妻を疑いながらも、本当に男と会うなどとは思っていなかったのです。それで尾行をしている時も、探偵にでも成った気分で少し楽しくさえ感じていました。私はただ妻が友人達と会っているのを確認して、妻を信用し切っていた元の私に戻りたかっただけなのです。いつしか涙が溢(あふ)れてきて、また嫌な妄想に苦しめられていました。 第5回へ
2018/01/26
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