中Y〖やり直すか?〗第5回
中Y〖やり直すか?〗第5回
第4回
私(衛藤直人:えとう・なおと:44歳)に彼(大田和宏:おおた・かずひろ:33歳)との秘密を知られた妻(衛藤優奈:えとう・ゆうな:44歳)は、もう帰って来ないかも知れません。それは私に対する罪悪感から、顔を合わす事が出来ないという思いからでは無くて、家に戻れば愛する彼との仲を引き裂かれるかも知れないという思いからだとすれば、今頃は彼に抱き付いて激しく唇を貪っているでしょう。しかしこのまま家庭や職場を放棄して逃げる訳にもいかず、そうなると妻に男気を見せたい彼が一人で来るかも知れません。その時です玄関の開く音が聞こえたので彼が来たと思った私は、弱い自分を見られたくなくて、慌てて顔を洗いに行って戻ってくると、妄想は外れていて妻が一人で立っていました。
妻は俯いて立っていて、よく見ると足が震えています。
『あなた、あれは・・・。』
「あれは、何だ? いつ残業があって、いつ同僚達と食事に行って、いつ仁美さん達と会っていたのか全て書き出してみろ! 仁美さん達のところには今から行って確かめる。職場にも明日行ってくる。」
妻は最初言い訳をしようと思ったようですが、隠し通せるものではないと観念したのか、膝から崩れ落ちて床に泣き伏しました。私は目の前で泣き崩れている。そんな優奈の姿が信じられませんでした。
隠れて大田と会っていた事もですが、何よりも妻が嘘を吐いていた事が信じられないのです。妻は嘘の嫌いな女でした。私達夫婦の約束事はただ一つ、お互いに嘘を吐かない事で、それは入籍する時に妻が言い出した事です。その言葉通り私は何でも話してきたつもりですし、妻も隠し事はしませんでした。妻が変わってしまったのは大田の影響だとすれば、妻も自分の信念を曲げるほど、あの男に溺れていた事になります。
仕切りに許しを請う妻の優奈を見ていると、生まれて初めて人を殺したいと思いましたが、その殺したい相手は妻ではなくてあの男でした。確かに私を裏切ったのは相手の男ではなくて妻なのですが、今までこれだけ愛してきた妻を、今でもこれだけ愛している妻をすぐに嫌いにはなれず、男に強引に誘われて、私しか男を知らない妻は騙されているのだと何処かで妻を庇ってしまい、怒りを相手の男に向けようとしてしまいます。
「今すぐに奴を呼べ! 俺は絶対に許さないぞ!」
妻は激しく泣き出して、千切れるほど首を横に振りました。
『あなたに嘘を吐いて会った事は、申し訳なかったと思っています。でも彼とはその様な関係ではないの・・。』
「それならどんな関係だ。今日だけでは無いだろ? ずっと嘘を吐いて、あの男と会っていたな?」
妻はゆっくり大きく頷きます。
「抱かれていたのか?」
これには激しく首を横に振りました。毎日のように会っていながら、男女の関係が無いなどとは信じられるはずも無かったのですが、ここ数時間の出来事に心の動揺を隠せず、これ以上自分を見失わない為にも、深くは追求出来ずにいました。 第6回に続く
2018/01/27
第4回
私(衛藤直人:えとう・なおと:44歳)に彼(大田和宏:おおた・かずひろ:33歳)との秘密を知られた妻(衛藤優奈:えとう・ゆうな:44歳)は、もう帰って来ないかも知れません。それは私に対する罪悪感から、顔を合わす事が出来ないという思いからでは無くて、家に戻れば愛する彼との仲を引き裂かれるかも知れないという思いからだとすれば、今頃は彼に抱き付いて激しく唇を貪っているでしょう。しかしこのまま家庭や職場を放棄して逃げる訳にもいかず、そうなると妻に男気を見せたい彼が一人で来るかも知れません。その時です玄関の開く音が聞こえたので彼が来たと思った私は、弱い自分を見られたくなくて、慌てて顔を洗いに行って戻ってくると、妄想は外れていて妻が一人で立っていました。
妻は俯いて立っていて、よく見ると足が震えています。
『あなた、あれは・・・。』
「あれは、何だ? いつ残業があって、いつ同僚達と食事に行って、いつ仁美さん達と会っていたのか全て書き出してみろ! 仁美さん達のところには今から行って確かめる。職場にも明日行ってくる。」
妻は最初言い訳をしようと思ったようですが、隠し通せるものではないと観念したのか、膝から崩れ落ちて床に泣き伏しました。私は目の前で泣き崩れている。そんな優奈の姿が信じられませんでした。
隠れて大田と会っていた事もですが、何よりも妻が嘘を吐いていた事が信じられないのです。妻は嘘の嫌いな女でした。私達夫婦の約束事はただ一つ、お互いに嘘を吐かない事で、それは入籍する時に妻が言い出した事です。その言葉通り私は何でも話してきたつもりですし、妻も隠し事はしませんでした。妻が変わってしまったのは大田の影響だとすれば、妻も自分の信念を曲げるほど、あの男に溺れていた事になります。
仕切りに許しを請う妻の優奈を見ていると、生まれて初めて人を殺したいと思いましたが、その殺したい相手は妻ではなくてあの男でした。確かに私を裏切ったのは相手の男ではなくて妻なのですが、今までこれだけ愛してきた妻を、今でもこれだけ愛している妻をすぐに嫌いにはなれず、男に強引に誘われて、私しか男を知らない妻は騙されているのだと何処かで妻を庇ってしまい、怒りを相手の男に向けようとしてしまいます。
「今すぐに奴を呼べ! 俺は絶対に許さないぞ!」
妻は激しく泣き出して、千切れるほど首を横に振りました。
『あなたに嘘を吐いて会った事は、申し訳なかったと思っています。でも彼とはその様な関係ではないの・・。』
「それならどんな関係だ。今日だけでは無いだろ? ずっと嘘を吐いて、あの男と会っていたな?」
妻はゆっくり大きく頷きます。
「抱かれていたのか?」
これには激しく首を横に振りました。毎日のように会っていながら、男女の関係が無いなどとは信じられるはずも無かったのですが、ここ数時間の出来事に心の動揺を隠せず、これ以上自分を見失わない為にも、深くは追求出来ずにいました。 第6回に続く
2018/01/27
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