中24『愛の絆(きずな)』 第11回
中24『愛の絆(きずな)』 第11回
第10回
『(ああぁぁ・・・あなた・・)あの私・・私、まだどうするかは決めてないんだけど、来週はバイト先で宿泊研修があるの・・・』
「へぇぇ・・このご時世なのに、アルバイトの人に宿泊研修を? でもいいじゃないか、行って来いよ、気晴らしにもなる。それじゃ来週は携帯に電話するよ・・・・じゃぁな、詩音」
受話器を置く詩音の腕が震えている。会社が倒産し、咳をしながら頑張っている夫(稲沢信也:いなざわ・しんや:31歳)に、とてもこちらの苦境を話せない。《もう、自分で解決するしかない》そして《・・もう一度、あのオーナーの横暴を何とかして跳ね返すしかないわ。》って詩音は心に決めた。
朝の通勤時間帯の空港ロビーで、日本経済新聞の株価の動向を食い入るようにサングラスの男が読みふけっている。諸口惣一(もろぐち・そういち:40歳)はフランチャイズの喫茶店を経営する傍らで、株式投資にも手を出していた。取引している株価が値下がりしているのに苛立っている。
あの2008年9月のリーマン・ショックで下落した株価は漸く、9割程度まで回復したものの、「信用買い」(証券会社に一定の保証金を預け、証券会社から資金を借りて市場で株式を買うこと。近い将来の株価の上昇に期待して、現在の株価で買って、将来の値上がりした時点で売って、証券会社から借りた資金を返済する。)で生じた損失を取り戻すまでには至っていない。
それに加えて、予定の時刻に待ち女はいまだ、現れず・・・・・イライラがつのる。
『オ・・オーナー・・・遅れてすみません。』稲沢詩音(いなざわ・しおん:28歳)が頭を下げる。
〔おっ!・・なんだ、その服装は? とても、旅行に行く恰好・・まあいい、俺のあとについて来い!〕
『あの・・私・・・。』
〔いいから、ついてくるんだ・・・時間がない・・。〕
諸口の足は、空港内の女性ファッションの店の前で立ち止まった。
〔いいか・・・口答えは許さんぞ!〕
それから20分後、店の前で女性オーナー(高畠瑞希)が深々と頭を下げ、二人の客を送り出す。
[まあ、可哀そうに・・・詩音さんて言ったかしら、気の良さそうないい人なのに、これまでの人と同じように、暫くの間、惣ちゃんのオモチャにされるのね。]
その視線の先では、諸口が恋人気取りで、詩音の肩を抱き、新調のワンピースの腰に手を回していた。詩音が嫌がり立ち止まると、諸口が耳元で何か囁いている。そして、諸口の手がいやらしく詩音のヒップを撫で回した。
[惣ちゃん・・・いい加減にしておかないと・・・今に天罰が下るわよ・・本当に・・・] 第12回に続く
2016/11/08
第10回
『(ああぁぁ・・・あなた・・)あの私・・私、まだどうするかは決めてないんだけど、来週はバイト先で宿泊研修があるの・・・』
「へぇぇ・・このご時世なのに、アルバイトの人に宿泊研修を? でもいいじゃないか、行って来いよ、気晴らしにもなる。それじゃ来週は携帯に電話するよ・・・・じゃぁな、詩音」
受話器を置く詩音の腕が震えている。会社が倒産し、咳をしながら頑張っている夫(稲沢信也:いなざわ・しんや:31歳)に、とてもこちらの苦境を話せない。《もう、自分で解決するしかない》そして《・・もう一度、あのオーナーの横暴を何とかして跳ね返すしかないわ。》って詩音は心に決めた。
朝の通勤時間帯の空港ロビーで、日本経済新聞の株価の動向を食い入るようにサングラスの男が読みふけっている。諸口惣一(もろぐち・そういち:40歳)はフランチャイズの喫茶店を経営する傍らで、株式投資にも手を出していた。取引している株価が値下がりしているのに苛立っている。
あの2008年9月のリーマン・ショックで下落した株価は漸く、9割程度まで回復したものの、「信用買い」(証券会社に一定の保証金を預け、証券会社から資金を借りて市場で株式を買うこと。近い将来の株価の上昇に期待して、現在の株価で買って、将来の値上がりした時点で売って、証券会社から借りた資金を返済する。)で生じた損失を取り戻すまでには至っていない。
それに加えて、予定の時刻に待ち女はいまだ、現れず・・・・・イライラがつのる。
『オ・・オーナー・・・遅れてすみません。』稲沢詩音(いなざわ・しおん:28歳)が頭を下げる。
〔おっ!・・なんだ、その服装は? とても、旅行に行く恰好・・まあいい、俺のあとについて来い!〕
『あの・・私・・・。』
〔いいから、ついてくるんだ・・・時間がない・・。〕
諸口の足は、空港内の女性ファッションの店の前で立ち止まった。
〔いいか・・・口答えは許さんぞ!〕
それから20分後、店の前で女性オーナー(高畠瑞希)が深々と頭を下げ、二人の客を送り出す。
[まあ、可哀そうに・・・詩音さんて言ったかしら、気の良さそうないい人なのに、これまでの人と同じように、暫くの間、惣ちゃんのオモチャにされるのね。]
その視線の先では、諸口が恋人気取りで、詩音の肩を抱き、新調のワンピースの腰に手を回していた。詩音が嫌がり立ち止まると、諸口が耳元で何か囁いている。そして、諸口の手がいやらしく詩音のヒップを撫で回した。
[惣ちゃん・・・いい加減にしておかないと・・・今に天罰が下るわよ・・本当に・・・] 第12回に続く
2016/11/08
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