中10〚新しい夫婦の形〛1章第6話
中10〚新しい夫婦の形〛1章第6話
園部君は新潟でのプレゼンの後、妻の希美(のぞみ)と居酒屋で酒を飲み、そのままホテルの自分の部屋へ連れ込んで関係を迫ったことを自白した。しかし、結果は僕が心配していたものではなく、希美はそれをしっかり断り何事もなく東京へ帰ってきたのである。妻から許しはもらっている園部君の行為は、僕自身としては決して許せるものではなかったが、なんとなく釈然としないこの思いはいったい何故なのだろう。
(出張先で同僚に口説かれる・・・《一晩だけ思い出を作りたい。》と妻に言った園部君の言葉は明らかに性交渉を意味している。そのような事がいつの間にか本社ではまかり通るようになっていたのか?妻は何故このことを僕に言わないのだ?・・・言わないのではなく言えないのか?・・・やはり僕に対して後ろめたい何らかの事情があって?・・・・)
やはりこれで終わりに出来るような問題ではないのだ。
「よし、話はわかった。でも最後に一つだけ質問させてくれ。君はこの前の出張の時、なぜ妻を口説こうと思ったんだ?」
《そ、それは、さっきも言ったように酔っていまして・・・それにご主人の目の前で大変失礼ですが、百瀬さんがとても魅力的だったので・・・・つい・・・・すみませんでした・・・。》
そう言って園部君は僕に頭を下げる。
「それだけか?」
《えっ?それだけかって?》
「希美なら簡単に落とせると思ってたんじゃないのか?」
《そ、そんなことありませんよ。百瀬さんは会社でもとても身持ちが堅くて有名ですし、それより人の奥さんですから・・・・でも、何故そんな風に思うのですか?》
僕はこれまで園部君という男の声を聴いていて、あの時のトイレに入ってきた男の声と非常によく似ていると感じていた。ここで、一か八(ばち)かの賭けに出た。「数カ月前に本社のトイレの中で、君が友人に《百瀬さんは出張の時ならやれる。》と言っていたのを偶然そのトイレの個室の中で聞いてしまってね。」
《えっ・・・・。》
みるみる園部君の顔色が変わっていった。(ビンゴ!)
「今回の君のセクハラ的行為は、妻も僕も問題にするつもりはない。ただ、あの時の話の真相を僕に話してくれることが条件だが・・。」
《そ、それは・・・・・・。》
園部君はそのまま黙り込んでしまう。
僕はここが核心のところと判断をして、
「・・・君がそういう態度なら、今回の君のセクハラ的行為を社内のハラスメント調査委員会へ告発する。いいね。」
この時とばかりに強い口調で園部君に言い放った。
《わ、わかりました・・・そのかわり、私が言ったということは誰にも言わないでください。》
「ああ、約束しよう。」
ことの始まりは本社企画部のフロアーにあるトイレの中で聞いた妻の出張先での不貞行為の噂話。僕はその噂話を吹聴した張本人の尻尾をつかむことにやっと成功する。
《あの、すみません。お話する前に聞きたいのですが、その事を知って益岡さんはどうされるおつもりですか?》
逆に園部君から僕に質問してきた。
「そんなことは君の知ったことではないだろう?」
《でも、私の言ったことで百瀬さんが不幸になるのは・・・。》
(貴様がそんなことを言える立場か!)そこまで口に出かかった。
「妻から慰謝料をもらって別れたら、君が責任とって結婚してやればいいだろう。」
僕は思ってもいないことをつい口走ってしまう。
《結婚できればいいですけど・・・百瀬さんは私を選んではくれなかったので・・。》
(当たり前だ!この若造が!誰がお前なんかに希美を渡すか!)
「心配しなくてもいい。妻と別れるつもりはない。ただ夫として真実を受け止めておきたいだけなんだ。」
僕は自分の心を落ち着かせて園部君に言った。
《わかりました。それでは正直にお話しますが、まだ本当かどうかもわからないので、どうか早まった結論をださないでください。》
「大丈夫、君に言われなくとも冷静に判断をするから。」
僕はそう言うと、目の前にあるすっかり冷え切ったコーヒーをすすった。
2015/04/01
園部君は新潟でのプレゼンの後、妻の希美(のぞみ)と居酒屋で酒を飲み、そのままホテルの自分の部屋へ連れ込んで関係を迫ったことを自白した。しかし、結果は僕が心配していたものではなく、希美はそれをしっかり断り何事もなく東京へ帰ってきたのである。妻から許しはもらっている園部君の行為は、僕自身としては決して許せるものではなかったが、なんとなく釈然としないこの思いはいったい何故なのだろう。
(出張先で同僚に口説かれる・・・《一晩だけ思い出を作りたい。》と妻に言った園部君の言葉は明らかに性交渉を意味している。そのような事がいつの間にか本社ではまかり通るようになっていたのか?妻は何故このことを僕に言わないのだ?・・・言わないのではなく言えないのか?・・・やはり僕に対して後ろめたい何らかの事情があって?・・・・)
やはりこれで終わりに出来るような問題ではないのだ。
「よし、話はわかった。でも最後に一つだけ質問させてくれ。君はこの前の出張の時、なぜ妻を口説こうと思ったんだ?」
《そ、それは、さっきも言ったように酔っていまして・・・それにご主人の目の前で大変失礼ですが、百瀬さんがとても魅力的だったので・・・・つい・・・・すみませんでした・・・。》
そう言って園部君は僕に頭を下げる。
「それだけか?」
《えっ?それだけかって?》
「希美なら簡単に落とせると思ってたんじゃないのか?」
《そ、そんなことありませんよ。百瀬さんは会社でもとても身持ちが堅くて有名ですし、それより人の奥さんですから・・・・でも、何故そんな風に思うのですか?》
僕はこれまで園部君という男の声を聴いていて、あの時のトイレに入ってきた男の声と非常によく似ていると感じていた。ここで、一か八(ばち)かの賭けに出た。「数カ月前に本社のトイレの中で、君が友人に《百瀬さんは出張の時ならやれる。》と言っていたのを偶然そのトイレの個室の中で聞いてしまってね。」
《えっ・・・・。》
みるみる園部君の顔色が変わっていった。(ビンゴ!)
「今回の君のセクハラ的行為は、妻も僕も問題にするつもりはない。ただ、あの時の話の真相を僕に話してくれることが条件だが・・。」
《そ、それは・・・・・・。》
園部君はそのまま黙り込んでしまう。
僕はここが核心のところと判断をして、
「・・・君がそういう態度なら、今回の君のセクハラ的行為を社内のハラスメント調査委員会へ告発する。いいね。」
この時とばかりに強い口調で園部君に言い放った。
《わ、わかりました・・・そのかわり、私が言ったということは誰にも言わないでください。》
「ああ、約束しよう。」
ことの始まりは本社企画部のフロアーにあるトイレの中で聞いた妻の出張先での不貞行為の噂話。僕はその噂話を吹聴した張本人の尻尾をつかむことにやっと成功する。
《あの、すみません。お話する前に聞きたいのですが、その事を知って益岡さんはどうされるおつもりですか?》
逆に園部君から僕に質問してきた。
「そんなことは君の知ったことではないだろう?」
《でも、私の言ったことで百瀬さんが不幸になるのは・・・。》
(貴様がそんなことを言える立場か!)そこまで口に出かかった。
「妻から慰謝料をもらって別れたら、君が責任とって結婚してやればいいだろう。」
僕は思ってもいないことをつい口走ってしまう。
《結婚できればいいですけど・・・百瀬さんは私を選んではくれなかったので・・。》
(当たり前だ!この若造が!誰がお前なんかに希美を渡すか!)
「心配しなくてもいい。妻と別れるつもりはない。ただ夫として真実を受け止めておきたいだけなんだ。」
僕は自分の心を落ち着かせて園部君に言った。
《わかりました。それでは正直にお話しますが、まだ本当かどうかもわからないので、どうか早まった結論をださないでください。》
「大丈夫、君に言われなくとも冷静に判断をするから。」
僕はそう言うと、目の前にあるすっかり冷え切ったコーヒーをすすった。
2015/04/01
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