中U【本当は・・・】第7回
中U【本当は・・・】第7回
(・・・えっ?)<ドクン>と胸が高鳴った。確かに美形ではあるけど、特別なものは感じない・・・・私(南野恵梨香:みなみの・えりか:27歳)はそんなふうに思っていた社長(佐分利慶介:さぶり・けいすけ:37歳)の柔和な表情が、なんだかいつもと違って見える。おかしい。こんな感情、夫(南野芳隆:よしたか:29歳)以外の男の人に抱くはずがないのに・・・・。
〔エリカ? どうかしましたか?〕
訝(いぶか)しげな佐分利社長の声ではっと我に返る。今、私は何を考えていたのだろう?
『い、いえ。何でもありません。それでは、私は秘書室に居ますので・・・。』
〔うん。何かあったら声をかけさせてもらいます。〕
返事もそこそこに、私はそそくさと社長室をあとにする。
私は、《イケメンなんかになびいたりしない。》そう思っていたのに・・・・(ごめんね、芳隆)こんな気の迷いが生まれるのも、きっと芳隆が居ないからだ。申し訳なさと、早く会いたいという気持ち。両方が猛烈に募ってきて胸が押しつぶされそうになる。
それから間。どうにか気持ちを落ち着けて仕事に集中していたら、ふいに携帯が鳴った。芳隆からだ。喜び勇んで通話ボタンを押し、期待を胸に耳へと押し当てる。
「・・・もしもし・・。」
が、電話越しに聞こえた芳隆の声を耳にした瞬間に分かった。
《これはきっとよくない報せだ。》
「ごめん。仕事が長引いて・・・帰るのが遅くなりそうなんだ。」
半ば予想していたとはいえ、ショックだった。まだこんな想いを続けないといけないなんて・・・。
『遅くなりそうって・・・もともと帰りは夜になるって言ってたわよね?』
「うん。だから、その・・・。」
『え? ちょっと待って! まさか今夜も帰って来れないの?』
「・・・ごめん。」
『そんな・・・。』
目の前が真っ暗になった。夫の帰りが一日遅れたくらいで何を、と世間の妻たちはきっと言うだろう。でも私にとってこれは紛れもない一大事なのだ。特に、あんなことがあったあとでは・・・・。
『明日のいつぐらいに帰って来れそう?』
「分からない。もしかすると夜になるかも・・・。月曜と火曜は代休もらえるらしいけど・・・。」
『それじゃあ意味がないじゃないの! 私はいつも通り仕事なのに!』
思わず口をついたその台詞は、少しきつい口調になってしまった。
『・・・ごめんなさい。怒ってるわけじゃないの。』
「うん。ホントごめんな、恵梨香。お土産を買って帰るよ。」
《そんなものは要らない。早くあなたに会いたいだけなの・・・・》
素直にそう言えたら少しは楽になるんだと思う。けどそんなことを言っても芳隆を困らせるだけだと分かっていた。
『うん。楽しみに待ってるわ。無理はしないでね。』
結局、私に言えるのはそんなことしかない。
「ありがとう。恵梨香、今はどこに居るの?」
『えっ!・・・今は・・・ちょっと、外に出てるんだけど・・・。』
何故だろう? 『会社に居る』ってとっさには言えなかった。
「そっか。恵梨香も風邪とかひかないようにね。今日も冷え込んでるしさ。」
『うん。芳隆こそね・・・・。』
そのあと少しだけ話をして、電話は終わる。私は最後まで本音を言えなくて・・・・そして最後まで『今会社に居るの』って言えなかった。 第8回へ続く
2016/12/15
〔エリカ? どうかしましたか?〕
訝(いぶか)しげな佐分利社長の声ではっと我に返る。今、私は何を考えていたのだろう?
『い、いえ。何でもありません。それでは、私は秘書室に居ますので・・・。』
〔うん。何かあったら声をかけさせてもらいます。〕
返事もそこそこに、私はそそくさと社長室をあとにする。
私は、《イケメンなんかになびいたりしない。》そう思っていたのに・・・・(ごめんね、芳隆)こんな気の迷いが生まれるのも、きっと芳隆が居ないからだ。申し訳なさと、早く会いたいという気持ち。両方が猛烈に募ってきて胸が押しつぶされそうになる。
それから間。どうにか気持ちを落ち着けて仕事に集中していたら、ふいに携帯が鳴った。芳隆からだ。喜び勇んで通話ボタンを押し、期待を胸に耳へと押し当てる。
「・・・もしもし・・。」
が、電話越しに聞こえた芳隆の声を耳にした瞬間に分かった。
《これはきっとよくない報せだ。》
「ごめん。仕事が長引いて・・・帰るのが遅くなりそうなんだ。」
半ば予想していたとはいえ、ショックだった。まだこんな想いを続けないといけないなんて・・・。
『遅くなりそうって・・・もともと帰りは夜になるって言ってたわよね?』
「うん。だから、その・・・。」
『え? ちょっと待って! まさか今夜も帰って来れないの?』
「・・・ごめん。」
『そんな・・・。』
目の前が真っ暗になった。夫の帰りが一日遅れたくらいで何を、と世間の妻たちはきっと言うだろう。でも私にとってこれは紛れもない一大事なのだ。特に、あんなことがあったあとでは・・・・。
『明日のいつぐらいに帰って来れそう?』
「分からない。もしかすると夜になるかも・・・。月曜と火曜は代休もらえるらしいけど・・・。」
『それじゃあ意味がないじゃないの! 私はいつも通り仕事なのに!』
思わず口をついたその台詞は、少しきつい口調になってしまった。
『・・・ごめんなさい。怒ってるわけじゃないの。』
「うん。ホントごめんな、恵梨香。お土産を買って帰るよ。」
《そんなものは要らない。早くあなたに会いたいだけなの・・・・》
素直にそう言えたら少しは楽になるんだと思う。けどそんなことを言っても芳隆を困らせるだけだと分かっていた。
『うん。楽しみに待ってるわ。無理はしないでね。』
結局、私に言えるのはそんなことしかない。
「ありがとう。恵梨香、今はどこに居るの?」
『えっ!・・・今は・・・ちょっと、外に出てるんだけど・・・。』
何故だろう? 『会社に居る』ってとっさには言えなかった。
「そっか。恵梨香も風邪とかひかないようにね。今日も冷え込んでるしさ。」
『うん。芳隆こそね・・・・。』
そのあと少しだけ話をして、電話は終わる。私は最後まで本音を言えなくて・・・・そして最後まで『今会社に居るの』って言えなかった。 第8回へ続く
2016/12/15
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