中U【本当は・・・】第5回 〖妻視点③〗
中U【本当は・・・】第5回 〖妻視点③〗
【妻視点】
夫の芳隆が出張へ発つ朝。拍子抜けするほど、彼はいつも通りだった。私(南野恵梨香:えりか)は、もし朝から襲いかかられても、今日だけは身を任せるつもりだったのに・・。そのせいでちょっとくらい仕事に遅れても・・・・なんて思ってしまうのは、一般に言う{爛(ただ)れている}というやつなのだろうか。
「それじゃあね。夜になったら電話をするよ。」
『ええ。いってらっしゃい。気をつけてね!』
私は玄関先でいつも通りに唇を重ねる。今日は少し特別なキスを期待していたのに、いつもと何も変わらず、ごく軽く唇を触れ合わせただけで芳隆は離れていってしまった。ドアの向こうにその姿が消えてしまって、少しの不安と不満が残る。《いい加減に、芳隆も分かってくれてもいいのに!》私がどれくらい芳隆のことを愛しているのかを・・・。
予想していた通り、今日は張り合いのない一日となった。帰っても芳隆が居ないと分かっているのだから、何を楽しみに働けばいいのか分からない。〔どうかしましたか、エリカ?〕どうやらそれが見た目にも出てしまっていたらしく、ついには佐分利社長にそんなことを言われてしまった。《いけない、しゃんとしなければ!》
そんなこんなでどうにか仕事を終えて、私は芳隆の居ない家へと帰る。3LDKのマンションは、1人で過ごすにはあまりにも広い。芳隆は約束通りに電話をかけてきてくれた。今日あったことを報告し合ったりだとか、とりとめのないことを30分ほど話したけど、それが終わるとまた家の中は静まりかえってしまう。
テレビをつけてみても、ちっとも気は紛れない。こんなときはさっさと寝てしまうに限る、と、いつもより随分と早い時間からベッドに潜り込んだ。夫の芳隆の匂いの染みついた布団にくるまって眠れば少しは落ち着くかと思ったけど、寂しさが余計に募っただけだった。《芳隆、早く帰ってきて!》
次の日も同じことの繰り返しだった。夫の芳隆が居なくても仕事はいつもと何も変わらない。佐分利社長と居る時間のほうが芳隆と話す時間よりも長いというのはある種の異常だと思う。〔昨日にも増して元気がありませんね。体調がよくないのだったら遠慮せずに言って下さい。〕ついには社長にそんな心配までされてしまった。『別にどうもありません。』と答えたらそれ以上追求されることはなかったけど、《これでは秘書失格だ!》
それにしても佐分利社長はよく私のことを見ているものだなと感心させられる。プライベートを仕事に持ち込むのは、仕事の出来ない女のすることだ。せめて外に居る間は気持ちを切り替えよう。
昨日の反省を活かして、今日は仕事が終わってから近所のレンタル屋でDVDを借りてきた。前々から見たかった映画作品ではあったのだけど・・・・見始めてすぐに《失敗した!》と気がついた。どうして恋愛ものを借りてきてしまったのだろう。気が紛れるどころか余計に虚しさが募ってきて、途中でやめてしまった。
私は時間とお金(大した金額ではない)を無駄にしてしまった徒労感も相まって、もう何もする気力が起こらない。芳隆との電話をしている間だけは少しだけ心が満たされたけど、それが終わってしまったら会いたい気持ちだけが余計に募ってしまう。何もすることがないので、今日もさっさと寝ることにする。明日は土曜日。仕事は休みだけど、夫の芳隆は居ない。
2015/06/17
【妻視点】
夫の芳隆が出張へ発つ朝。拍子抜けするほど、彼はいつも通りだった。私(南野恵梨香:えりか)は、もし朝から襲いかかられても、今日だけは身を任せるつもりだったのに・・。そのせいでちょっとくらい仕事に遅れても・・・・なんて思ってしまうのは、一般に言う{爛(ただ)れている}というやつなのだろうか。
「それじゃあね。夜になったら電話をするよ。」
『ええ。いってらっしゃい。気をつけてね!』
私は玄関先でいつも通りに唇を重ねる。今日は少し特別なキスを期待していたのに、いつもと何も変わらず、ごく軽く唇を触れ合わせただけで芳隆は離れていってしまった。ドアの向こうにその姿が消えてしまって、少しの不安と不満が残る。《いい加減に、芳隆も分かってくれてもいいのに!》私がどれくらい芳隆のことを愛しているのかを・・・。
予想していた通り、今日は張り合いのない一日となった。帰っても芳隆が居ないと分かっているのだから、何を楽しみに働けばいいのか分からない。〔どうかしましたか、エリカ?〕どうやらそれが見た目にも出てしまっていたらしく、ついには佐分利社長にそんなことを言われてしまった。《いけない、しゃんとしなければ!》
そんなこんなでどうにか仕事を終えて、私は芳隆の居ない家へと帰る。3LDKのマンションは、1人で過ごすにはあまりにも広い。芳隆は約束通りに電話をかけてきてくれた。今日あったことを報告し合ったりだとか、とりとめのないことを30分ほど話したけど、それが終わるとまた家の中は静まりかえってしまう。
テレビをつけてみても、ちっとも気は紛れない。こんなときはさっさと寝てしまうに限る、と、いつもより随分と早い時間からベッドに潜り込んだ。夫の芳隆の匂いの染みついた布団にくるまって眠れば少しは落ち着くかと思ったけど、寂しさが余計に募っただけだった。《芳隆、早く帰ってきて!》
次の日も同じことの繰り返しだった。夫の芳隆が居なくても仕事はいつもと何も変わらない。佐分利社長と居る時間のほうが芳隆と話す時間よりも長いというのはある種の異常だと思う。〔昨日にも増して元気がありませんね。体調がよくないのだったら遠慮せずに言って下さい。〕ついには社長にそんな心配までされてしまった。『別にどうもありません。』と答えたらそれ以上追求されることはなかったけど、《これでは秘書失格だ!》
それにしても佐分利社長はよく私のことを見ているものだなと感心させられる。プライベートを仕事に持ち込むのは、仕事の出来ない女のすることだ。せめて外に居る間は気持ちを切り替えよう。
昨日の反省を活かして、今日は仕事が終わってから近所のレンタル屋でDVDを借りてきた。前々から見たかった映画作品ではあったのだけど・・・・見始めてすぐに《失敗した!》と気がついた。どうして恋愛ものを借りてきてしまったのだろう。気が紛れるどころか余計に虚しさが募ってきて、途中でやめてしまった。
私は時間とお金(大した金額ではない)を無駄にしてしまった徒労感も相まって、もう何もする気力が起こらない。芳隆との電話をしている間だけは少しだけ心が満たされたけど、それが終わってしまったら会いたい気持ちだけが余計に募ってしまう。何もすることがないので、今日もさっさと寝ることにする。明日は土曜日。仕事は休みだけど、夫の芳隆は居ない。
2015/06/17
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