中U【本当は・・・】第8回
中U【本当は・・・】第8回
沈んだ気持ちで仕事をしているうちに、いつの間にか時刻は午後6時を回っていた。そろそろ切り上げよう。社長(佐分利慶介:さぶり・けいすけ:37歳)は取引先に出かけたまま帰ってきていないが、〔好きな時間に帰ってくれていい。〕と言われたので問題はないはずだ。
そんな短い会話を交わすだけでも、佐分利社長の顔はやっぱりいつもとは違って見えた。
ああだこうだと騒いでいる同僚達の気持ちが、今なら分かるような気がしてしまう。本当にどうしてしまったんだろう、私(南野恵梨香:みなみの・えりか:27歳)はたった数日夫(南野芳隆:みなみの・よしたか:29歳)に会えないだけでこんなに不安定になるとは思ってもみなかった。自分で自覚している以上に、私は芳隆に依存しているのかもしれない。
その夜。家に帰った私は、学生時代の女友達の岩崎美佳(いわさき・みか)に電話をかけた。付き合いの期間だけなら芳隆よりも長い。そう私の親友だ。[おっす恵梨香! 久しぶり!]って学生時代と何も変わらない、軽い調子の声。私たちはたっぷり小一時間かけてひとしきりお互いの近況を語り合ったあとで、やっとのことで本題に入る。
[・・・で? 何か話したいことがあるんでしょ?]
『うん・・・あのね美佳、変なことを訊くようだけど・・・いいかな?』
[だいじょぶ。恵梨香はいつも変だから(笑)。]
『え~?・・・ちょっと!』
なんとも失礼なやつだ。でもこの子に言われるとちっとも嫌味に感じない。
[冗談よ。で、どうした?]
『うん。あのね・・・好きな人が居るのに、他の男の人にドキっとしちゃうことって・・・浮気になると思う?』
[へっ・・・?]
美佳は一瞬の間絶句したあと、[ぶぶっ!]って吹き出した。
[アンタねえ・・・それが27歳の人妻が言うことですか?]
『えっ!・・・変かな?』
[あー、まあアンタはろくに恋もしないで結婚しちゃったからなあ。]
『失礼ね、恋ならしたわよ。』
[南野君と、ね。他の男は知らないでしょ。]
『・・・知らなくていいよ。』
[それで今困ってるんでしょうに。いい? 他の男にドキっとしたり、ちょっと目を惹かれたりするくらいは普通のことよ。気にするほどのことでもない。大体、それ言ったらアンタの夫だってアイドルとか見て鼻の下伸ばしたりしてるでしょうに。]
『ううん・・・してない、かな? 「恵梨香がこの世で一番だ」といつも言ってくれるから。』
[あー、はいはい、ごちそうさま。まあ南野君ならそうかもね。いいわ。とにかく、アンタが感じたのは別に特別なものでも何でもないの。南野君は明日帰ってくるんでしょ? 愛(いと)しい旦那様に思いっきり甘えて、さっさと忘れちゃいなさい!]
『それでいいのかな?』
[それ以外にどうしろって言うのよ?]
『そっか。・・・うん、ありがとう。ちょっと気持ちが軽くなった。』
[どういたしまして。感謝してるなら今度甘いものでもおごってね。]
それから少し美佳と話して、電話を切った。やっぱりこの子に話してよかった・・・随分と気が楽になったと思う。そのあと芳隆とも電話したけど、昼間に感じた後ろめたさみたいなものはもうなくなっていた。 第9回に続く
2017/01/14
沈んだ気持ちで仕事をしているうちに、いつの間にか時刻は午後6時を回っていた。そろそろ切り上げよう。社長(佐分利慶介:さぶり・けいすけ:37歳)は取引先に出かけたまま帰ってきていないが、〔好きな時間に帰ってくれていい。〕と言われたので問題はないはずだ。
そんな短い会話を交わすだけでも、佐分利社長の顔はやっぱりいつもとは違って見えた。
ああだこうだと騒いでいる同僚達の気持ちが、今なら分かるような気がしてしまう。本当にどうしてしまったんだろう、私(南野恵梨香:みなみの・えりか:27歳)はたった数日夫(南野芳隆:みなみの・よしたか:29歳)に会えないだけでこんなに不安定になるとは思ってもみなかった。自分で自覚している以上に、私は芳隆に依存しているのかもしれない。
その夜。家に帰った私は、学生時代の女友達の岩崎美佳(いわさき・みか)に電話をかけた。付き合いの期間だけなら芳隆よりも長い。そう私の親友だ。[おっす恵梨香! 久しぶり!]って学生時代と何も変わらない、軽い調子の声。私たちはたっぷり小一時間かけてひとしきりお互いの近況を語り合ったあとで、やっとのことで本題に入る。
[・・・で? 何か話したいことがあるんでしょ?]
『うん・・・あのね美佳、変なことを訊くようだけど・・・いいかな?』
[だいじょぶ。恵梨香はいつも変だから(笑)。]
『え~?・・・ちょっと!』
なんとも失礼なやつだ。でもこの子に言われるとちっとも嫌味に感じない。
[冗談よ。で、どうした?]
『うん。あのね・・・好きな人が居るのに、他の男の人にドキっとしちゃうことって・・・浮気になると思う?』
[へっ・・・?]
美佳は一瞬の間絶句したあと、[ぶぶっ!]って吹き出した。
[アンタねえ・・・それが27歳の人妻が言うことですか?]
『えっ!・・・変かな?』
[あー、まあアンタはろくに恋もしないで結婚しちゃったからなあ。]
『失礼ね、恋ならしたわよ。』
[南野君と、ね。他の男は知らないでしょ。]
『・・・知らなくていいよ。』
[それで今困ってるんでしょうに。いい? 他の男にドキっとしたり、ちょっと目を惹かれたりするくらいは普通のことよ。気にするほどのことでもない。大体、それ言ったらアンタの夫だってアイドルとか見て鼻の下伸ばしたりしてるでしょうに。]
『ううん・・・してない、かな? 「恵梨香がこの世で一番だ」といつも言ってくれるから。』
[あー、はいはい、ごちそうさま。まあ南野君ならそうかもね。いいわ。とにかく、アンタが感じたのは別に特別なものでも何でもないの。南野君は明日帰ってくるんでしょ? 愛(いと)しい旦那様に思いっきり甘えて、さっさと忘れちゃいなさい!]
『それでいいのかな?』
[それ以外にどうしろって言うのよ?]
『そっか。・・・うん、ありがとう。ちょっと気持ちが軽くなった。』
[どういたしまして。感謝してるなら今度甘いものでもおごってね。]
それから少し美佳と話して、電話を切った。やっぱりこの子に話してよかった・・・随分と気が楽になったと思う。そのあと芳隆とも電話したけど、昼間に感じた後ろめたさみたいなものはもうなくなっていた。 第9回に続く
2017/01/14
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