中U【本当は・・・】第6回 〖妻視点④〗
中U【本当は・・・】第6回 〖妻視点④〗
【妻視点】
“思ったより早く仕事が終わったから、予定より早く帰れそうだ・・・・”なんて、そんな喜ばしい報告もなく。朝にかかってきた電話の内容からすると、やはり夫の芳隆(よしたか)が帰ってくるのは夜になりそうだ。ひとまずは彼が気持ちよく帰ってこられるように、私(南野恵梨香:えりか)は自宅の掃除をすることにした。
といってもさほど広いわけでもなく、芳隆も私も日頃からこまめに掃除をするほうだから、細かいところまで徹底的にやっても午前中のうちに終わってしまった。さて昼からどうしようとしばらく考えて、会社に出ようと決める。急いでやらなければいけない仕事はないけど、細かい雑務は溜まったままだ。それをやっておけば気は紛れるだろうし、来週は早めに帰れる日が増えるかもしれない。時間の潰し方としては完璧だ。手早く支度を済ませて、綺麗に片付いた家をあとにした。
土曜に出勤するのなんて随分と久しぶりだ。記憶にある範囲では、少なくとも私が1人で秘書をやることになってからは初めてのことだと思う。先輩秘書が居た頃には、1人だけ休日出勤させるのも申し訳ないのでそれに付き合ったりはしていたのだけど・・・。
社長室の前を通り過ぎようとして、《もしかして》と思ってドアをノックしてみた。案の定、中から〔はい。〕と社長(佐分利慶介)の声が返ってくる。ドアを開けるといつも通りの柔らかい笑顔に出迎えられた。
〔やあエリカ。珍しいね、君が土曜日に来るなんて?〕
『ええ、ちょっと・・・。』
〔溜まっている仕事でもあったのかい?」
「・・・はい」
《本当は、いつやってもいいような仕事なのだけど》と心の中で付け加えながら、秘書の癖として社長のデスクをチェックする。コーヒーカップは置いてあるが、中身が空だ。
『社長、コーヒーをお入れしましょうか?』
〔ああ、アリガトウ。お願いします。〕
“アリガトウ”って口にするときの社長の笑顔は、いつも浮かべているものとは違って本当に嬉しそうだった。そんな細かいことに気付くあたり、なんだかんだで私もこの人のことをよく観察しているのだなあと思う。
そういえばここ数日、芳隆との電話を除けば会話らしい会話をした相手は佐分利社長だけかもしれない。そんな親近感と寂しさが相まってか、コーヒーを渡すとき、いつもなら言わない世間話がつい口をついた。
『社長こそ、会社が休みでも毎日出てこられているのですか?』
〔ん? いや、そんなことはないんですけどね。ああ、どうもアリガトウ。〕
コーヒーを受け取りながら、社長はぽりぽりと首のあたりをかいた。なんだかこの人らしくない、どこにでも居る普通の青年じみた仕草だ。《改めてハーフの美形が一段とエレガントさを際立たせている。と気づく》
〔なんせ独り身ですから。家に1人で居てもヒマでね。こうして仕事をしているほうがかえって気が楽なんですよ。〕
みんなが知っている〖やり手の社長〗の印象とはまた違った一面を垣間見た一言だった。《なんだ、この人も私と同じようなことを考えるんだな・・・・》そんなことを思ったのは、この時だった。
2015/07/22
【妻視点】
“思ったより早く仕事が終わったから、予定より早く帰れそうだ・・・・”なんて、そんな喜ばしい報告もなく。朝にかかってきた電話の内容からすると、やはり夫の芳隆(よしたか)が帰ってくるのは夜になりそうだ。ひとまずは彼が気持ちよく帰ってこられるように、私(南野恵梨香:えりか)は自宅の掃除をすることにした。
といってもさほど広いわけでもなく、芳隆も私も日頃からこまめに掃除をするほうだから、細かいところまで徹底的にやっても午前中のうちに終わってしまった。さて昼からどうしようとしばらく考えて、会社に出ようと決める。急いでやらなければいけない仕事はないけど、細かい雑務は溜まったままだ。それをやっておけば気は紛れるだろうし、来週は早めに帰れる日が増えるかもしれない。時間の潰し方としては完璧だ。手早く支度を済ませて、綺麗に片付いた家をあとにした。
土曜に出勤するのなんて随分と久しぶりだ。記憶にある範囲では、少なくとも私が1人で秘書をやることになってからは初めてのことだと思う。先輩秘書が居た頃には、1人だけ休日出勤させるのも申し訳ないのでそれに付き合ったりはしていたのだけど・・・。
社長室の前を通り過ぎようとして、《もしかして》と思ってドアをノックしてみた。案の定、中から〔はい。〕と社長(佐分利慶介)の声が返ってくる。ドアを開けるといつも通りの柔らかい笑顔に出迎えられた。
〔やあエリカ。珍しいね、君が土曜日に来るなんて?〕
『ええ、ちょっと・・・。』
〔溜まっている仕事でもあったのかい?」
「・・・はい」
《本当は、いつやってもいいような仕事なのだけど》と心の中で付け加えながら、秘書の癖として社長のデスクをチェックする。コーヒーカップは置いてあるが、中身が空だ。
『社長、コーヒーをお入れしましょうか?』
〔ああ、アリガトウ。お願いします。〕
“アリガトウ”って口にするときの社長の笑顔は、いつも浮かべているものとは違って本当に嬉しそうだった。そんな細かいことに気付くあたり、なんだかんだで私もこの人のことをよく観察しているのだなあと思う。
そういえばここ数日、芳隆との電話を除けば会話らしい会話をした相手は佐分利社長だけかもしれない。そんな親近感と寂しさが相まってか、コーヒーを渡すとき、いつもなら言わない世間話がつい口をついた。
『社長こそ、会社が休みでも毎日出てこられているのですか?』
〔ん? いや、そんなことはないんですけどね。ああ、どうもアリガトウ。〕
コーヒーを受け取りながら、社長はぽりぽりと首のあたりをかいた。なんだかこの人らしくない、どこにでも居る普通の青年じみた仕草だ。《改めてハーフの美形が一段とエレガントさを際立たせている。と気づく》
〔なんせ独り身ですから。家に1人で居てもヒマでね。こうして仕事をしているほうがかえって気が楽なんですよ。〕
みんなが知っている〖やり手の社長〗の印象とはまた違った一面を垣間見た一言だった。《なんだ、この人も私と同じようなことを考えるんだな・・・・》そんなことを思ったのは、この時だった。
2015/07/22
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