名A壊れかけた二人 第22章② 82 《終》
名A壊れかけた二人 第22章② 82 《終》
第22章① 81
朝起きると、妻の詩織(しおり)が朝ごはんを作ってくれていた。それを黙々と二人で食べていると『・・・今日は、一人で外出するね。色々考えたいから・・。』と、目を伏せたまま、詩織がそう言った。俺は目を合わさない詩織に対して、「わかった。」と、だけ返した。
詩織が車で出て行くと、俺はこっそりと翔太のマンションへ向かった。ふたりを信用していないとかではなく、そうならそうと、ちゃんと自分の目で見届けたかったからに過ぎない。
そのまま、翔太のマンションを監視しながら何時間も経過したが、家に一人でいるよりはマシだと思った。途中コンビニへ行ったりしていると昼過ぎに翔太が部屋から女を連れて出てきたのが見えた。(その瞬間ハッとした。)目を凝らすと、それは、詩織ではなくて会社の後輩の女子社員だった。普段ならここぞとばかりに騒ぐネタだが、その時ばかりはどうでも良かった。というより正直俺は安堵し
た。
その後、俺が家に急いで戻ると、詩織はすでに帰っていた。どこか物悲しそうな表情で『拓海・・どこに行っていたの?』と、聞いてきた。俺が正直に「詩織を探しに行っていた。」と、答えると詩織は眉を困ったように八の字にして『どうして?』と尋ねてきた。俺は「もう帰ってきてくれないかと思ったから。」と正直に告白をした。
詩織は、また悲しそうに顔を伏せて、『あのね・・・あたし、やっぱりたっくんのお嫁さんでいたい。』と、つぶやく。「いや俺の方こそお願いします。」と、頭を下げた。詩織が『ホントごめんね。』と、謝る。「俺こそ、詩織に馬鹿なことをさせてしまってごめん。」と、謝罪を繰り返す二人。
それから、ちょっと沈黙の時間があって、詩織が『ねぇ?』と、口を開いた。何かを決意した表情で詩織から『お願いがあるの。』とあらたまって言われる。「え、なに?」って、『1回だけ、たっくんを殴らせてくれますか?』
俺としてもそれくらいは当然なことだと思い、「いいよ。」と驚くほど冷静に承諾した。椅子に腰掛けながら、俺は静かに目を瞑った。そして、詩織に思いっきりグーで殴られた。鼻血が“どばどば”と出た。
『わっ!血が出た。ごめんね痛かった?』と自分で殴っておいて詩織が慌てている。俺は「大丈夫だよ。」と、云いながらも(本当は目から火花が出るほど)実際は痛かった。
詩織は俺の手当てをしながら、『・・・もう、やめようね?こんなことは。』と、またぽろぽろと大粒の涙を流しながら言った。俺が「わかっている。すまなかった。」と、再度謝ると『・・ごめんね。たっくん。』って、詩織も謝ってくる。
詩織が俺にしがみついてキスをしたので、俺は瞬間、顔をしかめる。詩織は『まだ痛い?』俺が「めちゃくちゃ痛い!」と即答すると、二人は泣きながら、クスクスと笑いあった。
その後で、詩織が『たっくん、ちょっと一緒にいて。』と、言うと詩織は、あの時(嘘出張の夜)に着ていたミニスカートとTバック、そしてあの水着を全てハサミで切り刻み始めた。何故それらの衣服なのかは、詩織は何も言わなかった。(それは最後のプレイに着用していたからこそだったと思う。)
全てを覗き穴から見て知っているだけに俺は何も尋ねることが出来ずにいた。詩織は俺の顔を一度ちらりと見ると、また視線を手元のハサミと切り刻まれる下着に落とし、こうつぶやいた。『許せないから・・・あの時の自分自身が・・。』と、だけ言いながらジョキジョキと切っていた。
全部を切り終わると、それをゴミ袋に詰める。詩織は明るい口調で、『はい、おーしまい!』と、俺に突き付けた。『これ、明日のゴミの日(月曜日)によろしくね。』と、そこには、無理やり作った笑顔とは真逆に真っ赤な目をした俺の嫁である詩織がいた。《翔太とセックスをした時に着ていた服や下着などを処分したのは多分それらが詩織の中では性欲に流された自分の象徴になったのだと推測しました。》
あれから3週間が過ぎた。最近は、子作りに励む毎日です。それは俺が「もう勘弁してくれ!」と、いうほど詩織が求めてきます。これまでの出来事は、二人の間では、まだまだ未消化な部分と不純なセックスがあと一歩で二人の仲を破壊したという後悔と共に、再結合された喜びが入り混じっているためなのか、この件は日常の話題に出せない雰囲気があったのです。
それでも、最近では、俺が夜の営みでつい弱音を吐くと、詩織は、ニヤニヤしながら『あいつはもっとすごかったよ~。』と、挑発をしてきます。俺が「もうそのことは勘弁してくれ・・。」と、言っても、『だ~め~しばらくは許してやんないよ。』と、やはりニヤニヤしながら虐めてきます。こんな“会話”が出来るレベルにはなってきています。
詩織は、事前に俺の許可を取った上で、翔太に最後の電話をしました。俺の目の前で、『もう会わないから・・でも今まで・・ありがとう・・・さようなら・・・。』と、別れを告げていました。その間、詩織はずっ~と俺の右手を、ぎゅっと力強く握り締めていました。後日に翔太と話す機会があり、〔やっとおれもお役御免ですな。〕と、肩の荷が下りたように笑っていました。
詩織からの、最後の桜さんへのメールにはこう書かれていました。
≪『色々な過ったセックスをしてしまったし、勢いだけで流されて心にもない馬鹿なことを口走っちゃったりもしてしまいました。それを許してくれた本当に大事な人の傍に寄り添いながら、この罪を、一生掛けて償っていきたいと思っています。』≫
最後の文章に、≪『もうこのようなプレイは止めます。今まで付き合って下さりありがとう。』≫とありました。桜さんからの返信はわかりません。付け加えると、このメールを見て、詩織と俺も同じ気持ちになった。そして、これからは詩織のPCを覗くことも無いでしょう。 《終》
2015/05/02
第22章① 81
朝起きると、妻の詩織(しおり)が朝ごはんを作ってくれていた。それを黙々と二人で食べていると『・・・今日は、一人で外出するね。色々考えたいから・・。』と、目を伏せたまま、詩織がそう言った。俺は目を合わさない詩織に対して、「わかった。」と、だけ返した。
詩織が車で出て行くと、俺はこっそりと翔太のマンションへ向かった。ふたりを信用していないとかではなく、そうならそうと、ちゃんと自分の目で見届けたかったからに過ぎない。
そのまま、翔太のマンションを監視しながら何時間も経過したが、家に一人でいるよりはマシだと思った。途中コンビニへ行ったりしていると昼過ぎに翔太が部屋から女を連れて出てきたのが見えた。(その瞬間ハッとした。)目を凝らすと、それは、詩織ではなくて会社の後輩の女子社員だった。普段ならここぞとばかりに騒ぐネタだが、その時ばかりはどうでも良かった。というより正直俺は安堵し
た。
その後、俺が家に急いで戻ると、詩織はすでに帰っていた。どこか物悲しそうな表情で『拓海・・どこに行っていたの?』と、聞いてきた。俺が正直に「詩織を探しに行っていた。」と、答えると詩織は眉を困ったように八の字にして『どうして?』と尋ねてきた。俺は「もう帰ってきてくれないかと思ったから。」と正直に告白をした。
詩織は、また悲しそうに顔を伏せて、『あのね・・・あたし、やっぱりたっくんのお嫁さんでいたい。』と、つぶやく。「いや俺の方こそお願いします。」と、頭を下げた。詩織が『ホントごめんね。』と、謝る。「俺こそ、詩織に馬鹿なことをさせてしまってごめん。」と、謝罪を繰り返す二人。
それから、ちょっと沈黙の時間があって、詩織が『ねぇ?』と、口を開いた。何かを決意した表情で詩織から『お願いがあるの。』とあらたまって言われる。「え、なに?」って、『1回だけ、たっくんを殴らせてくれますか?』
俺としてもそれくらいは当然なことだと思い、「いいよ。」と驚くほど冷静に承諾した。椅子に腰掛けながら、俺は静かに目を瞑った。そして、詩織に思いっきりグーで殴られた。鼻血が“どばどば”と出た。
『わっ!血が出た。ごめんね痛かった?』と自分で殴っておいて詩織が慌てている。俺は「大丈夫だよ。」と、云いながらも(本当は目から火花が出るほど)実際は痛かった。
詩織は俺の手当てをしながら、『・・・もう、やめようね?こんなことは。』と、またぽろぽろと大粒の涙を流しながら言った。俺が「わかっている。すまなかった。」と、再度謝ると『・・ごめんね。たっくん。』って、詩織も謝ってくる。
詩織が俺にしがみついてキスをしたので、俺は瞬間、顔をしかめる。詩織は『まだ痛い?』俺が「めちゃくちゃ痛い!」と即答すると、二人は泣きながら、クスクスと笑いあった。
その後で、詩織が『たっくん、ちょっと一緒にいて。』と、言うと詩織は、あの時(嘘出張の夜)に着ていたミニスカートとTバック、そしてあの水着を全てハサミで切り刻み始めた。何故それらの衣服なのかは、詩織は何も言わなかった。(それは最後のプレイに着用していたからこそだったと思う。)
全てを覗き穴から見て知っているだけに俺は何も尋ねることが出来ずにいた。詩織は俺の顔を一度ちらりと見ると、また視線を手元のハサミと切り刻まれる下着に落とし、こうつぶやいた。『許せないから・・・あの時の自分自身が・・。』と、だけ言いながらジョキジョキと切っていた。
全部を切り終わると、それをゴミ袋に詰める。詩織は明るい口調で、『はい、おーしまい!』と、俺に突き付けた。『これ、明日のゴミの日(月曜日)によろしくね。』と、そこには、無理やり作った笑顔とは真逆に真っ赤な目をした俺の嫁である詩織がいた。《翔太とセックスをした時に着ていた服や下着などを処分したのは多分それらが詩織の中では性欲に流された自分の象徴になったのだと推測しました。》
あれから3週間が過ぎた。最近は、子作りに励む毎日です。それは俺が「もう勘弁してくれ!」と、いうほど詩織が求めてきます。これまでの出来事は、二人の間では、まだまだ未消化な部分と不純なセックスがあと一歩で二人の仲を破壊したという後悔と共に、再結合された喜びが入り混じっているためなのか、この件は日常の話題に出せない雰囲気があったのです。
それでも、最近では、俺が夜の営みでつい弱音を吐くと、詩織は、ニヤニヤしながら『あいつはもっとすごかったよ~。』と、挑発をしてきます。俺が「もうそのことは勘弁してくれ・・。」と、言っても、『だ~め~しばらくは許してやんないよ。』と、やはりニヤニヤしながら虐めてきます。こんな“会話”が出来るレベルにはなってきています。
詩織は、事前に俺の許可を取った上で、翔太に最後の電話をしました。俺の目の前で、『もう会わないから・・でも今まで・・ありがとう・・・さようなら・・・。』と、別れを告げていました。その間、詩織はずっ~と俺の右手を、ぎゅっと力強く握り締めていました。後日に翔太と話す機会があり、〔やっとおれもお役御免ですな。〕と、肩の荷が下りたように笑っていました。
詩織からの、最後の桜さんへのメールにはこう書かれていました。
≪『色々な過ったセックスをしてしまったし、勢いだけで流されて心にもない馬鹿なことを口走っちゃったりもしてしまいました。それを許してくれた本当に大事な人の傍に寄り添いながら、この罪を、一生掛けて償っていきたいと思っています。』≫
最後の文章に、≪『もうこのようなプレイは止めます。今まで付き合って下さりありがとう。』≫とありました。桜さんからの返信はわかりません。付け加えると、このメールを見て、詩織と俺も同じ気持ちになった。そして、これからは詩織のPCを覗くことも無いでしょう。 《終》
2015/05/02
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