長I 【裏切り 第2節1章】08
長I 【裏切り 第2節1章】08
どうしてあんなに誠実だった妻の智子(ともこ)が、この様な事に成ってしまったのか皆目見当も付きません。単身赴任の間に妻が不倫をした。世間ではよく有る話かも知れませんが、私(岩本慎介)の妻に限って、その様な事が有る筈は無いと思っていました。
遊び好きな女ならまだしも、あの真面目な智子に限って、その様な事とは無縁の筈でした。しかし、私は未だに信じられずに、どこかで、何かの間違いだという微かな期待も持ってしまいます。“智子の不倫”が事実だとしても、世間でよく聞く不倫では無くて、妻には何かもっと重大な訳が有ったに違いないと思ってしまいます。
何か特別な理由が有る筈だと思いたくて、全て知らなければ今後の事は決められません。泣きじゃくる妻の智子を残して実家に行くと、母は驚き、嬉しそうな顔をしましたが、娘を暫らく預かって欲しいと頼むと、只ならぬ私の態度に妻の事だと察した母は、目に涙を溜めて頷きました。
1人で海外にいて愛に飢えているのに、妻を抱き締められなくなった私は、せめて娘だけでも抱き締めたいと思う感情を殺して、父と出掛けているという娘には、「まだ私が帰って来た事は言わないで欲しい。」と頼みました。娘に今の妻の見せなくても良い分、父と母が近くにいてくれた事を、これ程感謝した事は有りません。
家に戻っても妻は濡れた土間で、びしょ濡れのまま泣いていました。私にすれば泣いている事自体許せずに、何も話す気が起きません。何故なら、泣きたいのは私だからです。狂ってしまったのではないかと思うほど、ただ泣き続けていた妻も翌日には少し落ち着きを取り戻したのですが、私が何か言う度に涙を堪える事が出来ずに、まともに話が出来ません。
夕方になり、そんな妻が涙声で。
『あなた、いつ帰って来られたのですか?』
「そんな事を聞いてどうする?帰って来る日さえ分かっていたら上手く隠し通して、こんな事にはならなかったと言いたいのか?」
『違います、誤解なのです。あなたには嫌な思いをさせてしまいました。誤解されても仕方がないです。でも本当に誤解なのです。』
「誤解?派手な化粧。派手な服。ミニスカート。残業。休日出勤。泊まりで慰安旅行。友達の相談に乗っていたと言って、度重なる朝帰り。それでも誤解だと言って俺をだまそうとするのか!」
妻は何か言っているのですが、泣いている上に小さな声なので聞き取れません。
「泣かずに本当の事を話せる様になったら呼びに来い。それまで何日でも実家に行っている。」
娘には、まだ不安を与えたく無かったので実家に行く気は有りませんでしたが、持ち帰ったスーツケースを持って出て行く振りをすると。
『少し待って。私もどの様に説明したら良いのか分からないです。』
「どの様に説明?正直に事実を全て話せばいいだけだろ?他にも知っているぞ。おまえが絶えずあいつのアパートに入り浸っていた事も。それなのに奴は、いかにもおまえが初めて来たみたいに、何が心配した部下が電話しただ。」
妻の智子は更に大きな声で泣き出したので。
「泣いて誤魔化すな。30分待って泣き止まなかったら実家へ行く。実家へ行ったら、おまえがここを出て行くまで、もう絶対に帰って来ない。」
暫らく待っていても泣き止まない妻に腹がたち、立ち上がってスーツケースを持つと、妻は泣きながら。
『ごめんなさい。あと5分待って下さい。お願いします。』
そう言い残して、智子が洗面所へ走って行きました。
2015/05/31
どうしてあんなに誠実だった妻の智子(ともこ)が、この様な事に成ってしまったのか皆目見当も付きません。単身赴任の間に妻が不倫をした。世間ではよく有る話かも知れませんが、私(岩本慎介)の妻に限って、その様な事が有る筈は無いと思っていました。
遊び好きな女ならまだしも、あの真面目な智子に限って、その様な事とは無縁の筈でした。しかし、私は未だに信じられずに、どこかで、何かの間違いだという微かな期待も持ってしまいます。“智子の不倫”が事実だとしても、世間でよく聞く不倫では無くて、妻には何かもっと重大な訳が有ったに違いないと思ってしまいます。
何か特別な理由が有る筈だと思いたくて、全て知らなければ今後の事は決められません。泣きじゃくる妻の智子を残して実家に行くと、母は驚き、嬉しそうな顔をしましたが、娘を暫らく預かって欲しいと頼むと、只ならぬ私の態度に妻の事だと察した母は、目に涙を溜めて頷きました。
1人で海外にいて愛に飢えているのに、妻を抱き締められなくなった私は、せめて娘だけでも抱き締めたいと思う感情を殺して、父と出掛けているという娘には、「まだ私が帰って来た事は言わないで欲しい。」と頼みました。娘に今の妻の見せなくても良い分、父と母が近くにいてくれた事を、これ程感謝した事は有りません。
家に戻っても妻は濡れた土間で、びしょ濡れのまま泣いていました。私にすれば泣いている事自体許せずに、何も話す気が起きません。何故なら、泣きたいのは私だからです。狂ってしまったのではないかと思うほど、ただ泣き続けていた妻も翌日には少し落ち着きを取り戻したのですが、私が何か言う度に涙を堪える事が出来ずに、まともに話が出来ません。
夕方になり、そんな妻が涙声で。
『あなた、いつ帰って来られたのですか?』
「そんな事を聞いてどうする?帰って来る日さえ分かっていたら上手く隠し通して、こんな事にはならなかったと言いたいのか?」
『違います、誤解なのです。あなたには嫌な思いをさせてしまいました。誤解されても仕方がないです。でも本当に誤解なのです。』
「誤解?派手な化粧。派手な服。ミニスカート。残業。休日出勤。泊まりで慰安旅行。友達の相談に乗っていたと言って、度重なる朝帰り。それでも誤解だと言って俺をだまそうとするのか!」
妻は何か言っているのですが、泣いている上に小さな声なので聞き取れません。
「泣かずに本当の事を話せる様になったら呼びに来い。それまで何日でも実家に行っている。」
娘には、まだ不安を与えたく無かったので実家に行く気は有りませんでしたが、持ち帰ったスーツケースを持って出て行く振りをすると。
『少し待って。私もどの様に説明したら良いのか分からないです。』
「どの様に説明?正直に事実を全て話せばいいだけだろ?他にも知っているぞ。おまえが絶えずあいつのアパートに入り浸っていた事も。それなのに奴は、いかにもおまえが初めて来たみたいに、何が心配した部下が電話しただ。」
妻の智子は更に大きな声で泣き出したので。
「泣いて誤魔化すな。30分待って泣き止まなかったら実家へ行く。実家へ行ったら、おまえがここを出て行くまで、もう絶対に帰って来ない。」
暫らく待っていても泣き止まない妻に腹がたち、立ち上がってスーツケースを持つと、妻は泣きながら。
『ごめんなさい。あと5分待って下さい。お願いします。』
そう言い残して、智子が洗面所へ走って行きました。
2015/05/31
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