長I 【裏切り】第1章
長I 【裏切り】第1章
(原題:インプリンティング=刷り込み 投稿者:迷人 投稿日:2005/08/09)
親子3人幸せに暮らしていた私(岩本慎介)に、突然の海外赴任の話が持ち上がったのは今から4年ほど前でした。妻と何日も話し合いましたが、赴任先が南米のブラジルで地球の裏側と遠い事や期間が1年と短い事、娘の学校の事や、娘が幼稚園に行き出してから、妻が以前勤めていた同じ銀行の比較的近い所に有る支店にパートとして雇ってもらえた事などを考えて、『(ブラジルへ)ついて行きたい。』と言って譲らない妻を説得して、単身で赴任するという私の意見を押し通しました。
最初、1年ぐらい頼むと言われていた赴任でしたが結局半年延び、ようやく帰国出来たのは、私が41歳、妻の岩本智子(いわもと・ともこ:38歳)、結婚5年目にやっと授かった娘、理香(りか)が8歳になった初夏でした。
空港に着いて、当座必要な身の回りの物を詰め込んだスーツケースを受け取って出ると、そこには家族や知り合いの人を迎に来た、大勢の人達でごった返していましたが、私を迎に来た者は誰もいません。それもその筈、海外赴任が終った事や、私が今日帰国する事を、妻や身内には誰にも知らせていないのです。
それは私が赴任して7カ月ほど経った頃にかかってきた、私の母からの一本の電話から始まりました。
「慎介、一度帰ってこられないのか?休暇ぐらいは有るのだろ?」
「それは無理だ。ここは地球の裏側だぞ。日本までどれだけかかると思っているんだ?お金だってかかる。」
「旅費ならわたしが出すから。」
「お袋、どうした?何か有ったのか?」
母の話によると、1カ月ほど前から妻の行動が変わったと言うのです。残業だと言っては帰りの遅い日が何日も有り、先週の土曜日は『休日出勤になった。』と言って娘を預け、その後、『友達の相談に乗っていて遅くなったから泊めてもらう。』と電話が有り、娘を迎に来たのは日曜の昼近くだったそうです。
「智子と喧嘩でもしたのか?それとも理香を預かるのが疲れるのか?」と訊くと。
「いや、智子さんは良くしてくれるし、理香ちゃんを預かれる事は嬉しいよ。」
その時後ろから父の声が「もうやめておけ。お前の思い過ごしだ。」と聞こえ、電話は切られてしまいました。母が何を言いたかったのかは想像がつきましたが、その様な事は私にはとても信じられる事では有りませんでした。
妻の両親は智子が小学生の時に離婚し、それも父親の暴力が原因だったので怖い思いをした記憶が残り、母親と姉の女だけの家庭で育ち、女子高、女子短大と進んだ妻は、男性恐怖症とまでは行きませんが、男性には人一倍慎重でした。
会社の隣に有った銀行の窓口に座っていた智子の、制服を着ていなければ高校生でも通りそうな、童顔で可愛い顔と、それとは反比例するかのように制服を持ち上げている胸のギャップに惹かれて交際を申し込んだのですが、なかなかデートに応じてもらえず、デートの約束まで3カ月もかかったのです。
初めてのデートも私の横ではなくて、少し後ろを歩いていたのを思い出します。2人で逢う様になってからは見掛けだけではなくて、彼女の真面目で可愛い性格に惚れ、結婚後も妻の真面目で誠実な面は変わる事が有りませんでした。その妻が浮気をする事など想像も出来ません。
何より、妻の智子が私を愛してくれているという自負が有りました。赴任する前日の夜に妻を抱いた後、『絶対に浮気はしないでね。もしも浮気したら離婚します。いいえ、あなたと相手を殺しに行きます。私は何があってもあなたを裏切る事は無いから。あなたも我慢してね。』そう言っていたのは妻でした。
第2章に続く
2015/03/09
(原題:インプリンティング=刷り込み 投稿者:迷人 投稿日:2005/08/09)
親子3人幸せに暮らしていた私(岩本慎介)に、突然の海外赴任の話が持ち上がったのは今から4年ほど前でした。妻と何日も話し合いましたが、赴任先が南米のブラジルで地球の裏側と遠い事や期間が1年と短い事、娘の学校の事や、娘が幼稚園に行き出してから、妻が以前勤めていた同じ銀行の比較的近い所に有る支店にパートとして雇ってもらえた事などを考えて、『(ブラジルへ)ついて行きたい。』と言って譲らない妻を説得して、単身で赴任するという私の意見を押し通しました。
最初、1年ぐらい頼むと言われていた赴任でしたが結局半年延び、ようやく帰国出来たのは、私が41歳、妻の岩本智子(いわもと・ともこ:38歳)、結婚5年目にやっと授かった娘、理香(りか)が8歳になった初夏でした。
空港に着いて、当座必要な身の回りの物を詰め込んだスーツケースを受け取って出ると、そこには家族や知り合いの人を迎に来た、大勢の人達でごった返していましたが、私を迎に来た者は誰もいません。それもその筈、海外赴任が終った事や、私が今日帰国する事を、妻や身内には誰にも知らせていないのです。
それは私が赴任して7カ月ほど経った頃にかかってきた、私の母からの一本の電話から始まりました。
「慎介、一度帰ってこられないのか?休暇ぐらいは有るのだろ?」
「それは無理だ。ここは地球の裏側だぞ。日本までどれだけかかると思っているんだ?お金だってかかる。」
「旅費ならわたしが出すから。」
「お袋、どうした?何か有ったのか?」
母の話によると、1カ月ほど前から妻の行動が変わったと言うのです。残業だと言っては帰りの遅い日が何日も有り、先週の土曜日は『休日出勤になった。』と言って娘を預け、その後、『友達の相談に乗っていて遅くなったから泊めてもらう。』と電話が有り、娘を迎に来たのは日曜の昼近くだったそうです。
「智子と喧嘩でもしたのか?それとも理香を預かるのが疲れるのか?」と訊くと。
「いや、智子さんは良くしてくれるし、理香ちゃんを預かれる事は嬉しいよ。」
その時後ろから父の声が「もうやめておけ。お前の思い過ごしだ。」と聞こえ、電話は切られてしまいました。母が何を言いたかったのかは想像がつきましたが、その様な事は私にはとても信じられる事では有りませんでした。
妻の両親は智子が小学生の時に離婚し、それも父親の暴力が原因だったので怖い思いをした記憶が残り、母親と姉の女だけの家庭で育ち、女子高、女子短大と進んだ妻は、男性恐怖症とまでは行きませんが、男性には人一倍慎重でした。
会社の隣に有った銀行の窓口に座っていた智子の、制服を着ていなければ高校生でも通りそうな、童顔で可愛い顔と、それとは反比例するかのように制服を持ち上げている胸のギャップに惹かれて交際を申し込んだのですが、なかなかデートに応じてもらえず、デートの約束まで3カ月もかかったのです。
初めてのデートも私の横ではなくて、少し後ろを歩いていたのを思い出します。2人で逢う様になってからは見掛けだけではなくて、彼女の真面目で可愛い性格に惚れ、結婚後も妻の真面目で誠実な面は変わる事が有りませんでした。その妻が浮気をする事など想像も出来ません。
何より、妻の智子が私を愛してくれているという自負が有りました。赴任する前日の夜に妻を抱いた後、『絶対に浮気はしないでね。もしも浮気したら離婚します。いいえ、あなたと相手を殺しに行きます。私は何があってもあなたを裏切る事は無いから。あなたも我慢してね。』そう言っていたのは妻でした。
第2章に続く
2015/03/09
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