中11 〖家庭教師の誤算 第9回〗
中11 〖家庭教師の誤算 第9回〗
結局僕たちはまたシャワーを浴びて、ベッドに横になると猛烈な睡魔が襲ってくる。どれだけ眠ったのかわからなかったが、目を覚ますと香澄の顔が目の前にあった。彼女の大きな瞳が僕をずっと見つめている。
「あっ、寝ちゃった?」
『うん、今日の先生の顔を覚えておきたくてずっと見ていたの。』
「痛かったろ。我慢できなくて、ゴメン。」
『ううん、素敵だったよ。こんな素敵なロストバージンって、そうそうないんじゃないかな。』
香澄が言うほど素敵だったとは、初めての僕でも到底そうは思えない。でも、香澄の優しさには感謝していた。ホテルを出ると小雨が降っている。『折り畳み傘を持っているんだけど、私、傘を濡らすの好きじゃないんだ。先生、走ろう。』そう言うと香澄は駅に向かって僕の前を走り出した。
小鹿のようにダッシュをする香澄のあとを追いながら、彼女が少し蟹股気味になっているのを見て僕は思わず笑ってしまう。年下らしく子供っぽいところと、年下なのに大人っぽいところがあって、高校生というのは微妙で面白い存在だと思った。
駅に着いた時、香澄は肩で息をしていたが疲れた様子はない。ハンカチを取り出して、香澄の顔を拭いてやると、『先生、ありがとう。』と言いながら、香澄もハンカチを取り出して僕の顔を拭いた。「僕たち、お互いに何をやっているんだろう?・・・」笑いながらそう言
うと、香澄も笑いだして言った。
『そうだね、でも、先生の顔をもう少し触っていたいの。』
香澄は少し背伸びをして僕の顔を引き寄せると唇にチュッとキスをする。
『先生、またね。バイバイ。』
小さく胸の前で小さく手を振ると香澄は駅の改札に向かって行った。
そんな香澄の後姿を僕はいつまでも見送っていたが、香澄は一度も振り返らなかった。
『バイバイをした後に振り返るのはね、今生のお別れの時だけなんだって・・・。』
いつだったか香澄が僕にそう話していたのを思い出した。
次に香澄の家を訪問した時、香澄はいつも通り。母親の前では品行方正な態度とは言えなかったが、二人きりになるとデートをしたときの香澄がそこにいた。部屋に入ると香澄は自習を始める。
僕もいつもの通りにマンガを読み始めたのだけど、香澄のことが気になってチラチラ見ていたら、香澄が背中を向けたまま僕に言った。
『先生にそんなに見つめられたら、私、穴が開いちゃうよ!』
「えっ?どうしてわかるの?」
『だって私、後ろにも目がついているだもん。』
どう考えても不思議だった。香澄は決して僕の方を振り返っていなかったので、見ていたことを照れくさく思うより、驚きの方が勝ってしまう。
僕が思わず立ち上がって香澄の肩越しに机の上を覗いてみたら、小さな手鏡が置いてあって、香澄はそれを隠そうともしなかった。
『ねっ!先生、マジで驚いていたでしょ?』
悪戯っぽく笑った香澄が振り返って言った。何だか極まりが悪くて、苦笑いをしていると再び香澄が口を開いた。
『私のことを見てくれていて嬉しいよ。』
この子はどうしてこんなに自分の感情をストレートに口にできるのだろう。後ろが見える謎が解けた今、今度はそのことの方が不思議に思えた。
『先生!』いつもの通り、香澄に呼ばれて隣に座るとノックの音がして母親がケーキとお紅茶を持って入ってくる。(これも不思議だ!)僕はコーヒーが苦手なのだけど、この家では最初から紅茶だった。(でもコーヒーか紅茶か一度も訊かれたことがなかった。)
母親が部屋から出て行くと、香澄はケーキをフォークで口に運びながら、ようやくこの間のことを話題に出す。
『プラネタリウム、もったいなかったなぁ~』
「前の晩は遅かったの?」
『うん、っていうか、明日先生と会おうと決めてから全然眠れなかったの・・。』
「でも、約束していたわけじゃないから、会えるかどうかも判らなかっただろう?」
『うん、でも会えるって信じてた。』
「それで会ったら、眠っちゃったんだ。」
『そう。先生の顔を見たらね、安心しちゃったんだと思う。』
香澄は唇に付いたクリームを舌でペロッと舐めながら言ったが、二人の秘密を持ってしまった所為か、それが何だか妙にエロい感じがした。
香澄とそういう関係になったからといって、会うたびにセックスをしていたわけではない。なんと言っても彼女は受験生だったし、僕は香澄の受験の妨げになるようなことはしたくなかった。
2015/04/11
結局僕たちはまたシャワーを浴びて、ベッドに横になると猛烈な睡魔が襲ってくる。どれだけ眠ったのかわからなかったが、目を覚ますと香澄の顔が目の前にあった。彼女の大きな瞳が僕をずっと見つめている。
「あっ、寝ちゃった?」
『うん、今日の先生の顔を覚えておきたくてずっと見ていたの。』
「痛かったろ。我慢できなくて、ゴメン。」
『ううん、素敵だったよ。こんな素敵なロストバージンって、そうそうないんじゃないかな。』
香澄が言うほど素敵だったとは、初めての僕でも到底そうは思えない。でも、香澄の優しさには感謝していた。ホテルを出ると小雨が降っている。『折り畳み傘を持っているんだけど、私、傘を濡らすの好きじゃないんだ。先生、走ろう。』そう言うと香澄は駅に向かって僕の前を走り出した。
小鹿のようにダッシュをする香澄のあとを追いながら、彼女が少し蟹股気味になっているのを見て僕は思わず笑ってしまう。年下らしく子供っぽいところと、年下なのに大人っぽいところがあって、高校生というのは微妙で面白い存在だと思った。
駅に着いた時、香澄は肩で息をしていたが疲れた様子はない。ハンカチを取り出して、香澄の顔を拭いてやると、『先生、ありがとう。』と言いながら、香澄もハンカチを取り出して僕の顔を拭いた。「僕たち、お互いに何をやっているんだろう?・・・」笑いながらそう言
うと、香澄も笑いだして言った。
『そうだね、でも、先生の顔をもう少し触っていたいの。』
香澄は少し背伸びをして僕の顔を引き寄せると唇にチュッとキスをする。
『先生、またね。バイバイ。』
小さく胸の前で小さく手を振ると香澄は駅の改札に向かって行った。
そんな香澄の後姿を僕はいつまでも見送っていたが、香澄は一度も振り返らなかった。
『バイバイをした後に振り返るのはね、今生のお別れの時だけなんだって・・・。』
いつだったか香澄が僕にそう話していたのを思い出した。
次に香澄の家を訪問した時、香澄はいつも通り。母親の前では品行方正な態度とは言えなかったが、二人きりになるとデートをしたときの香澄がそこにいた。部屋に入ると香澄は自習を始める。
僕もいつもの通りにマンガを読み始めたのだけど、香澄のことが気になってチラチラ見ていたら、香澄が背中を向けたまま僕に言った。
『先生にそんなに見つめられたら、私、穴が開いちゃうよ!』
「えっ?どうしてわかるの?」
『だって私、後ろにも目がついているだもん。』
どう考えても不思議だった。香澄は決して僕の方を振り返っていなかったので、見ていたことを照れくさく思うより、驚きの方が勝ってしまう。
僕が思わず立ち上がって香澄の肩越しに机の上を覗いてみたら、小さな手鏡が置いてあって、香澄はそれを隠そうともしなかった。
『ねっ!先生、マジで驚いていたでしょ?』
悪戯っぽく笑った香澄が振り返って言った。何だか極まりが悪くて、苦笑いをしていると再び香澄が口を開いた。
『私のことを見てくれていて嬉しいよ。』
この子はどうしてこんなに自分の感情をストレートに口にできるのだろう。後ろが見える謎が解けた今、今度はそのことの方が不思議に思えた。
『先生!』いつもの通り、香澄に呼ばれて隣に座るとノックの音がして母親がケーキとお紅茶を持って入ってくる。(これも不思議だ!)僕はコーヒーが苦手なのだけど、この家では最初から紅茶だった。(でもコーヒーか紅茶か一度も訊かれたことがなかった。)
母親が部屋から出て行くと、香澄はケーキをフォークで口に運びながら、ようやくこの間のことを話題に出す。
『プラネタリウム、もったいなかったなぁ~』
「前の晩は遅かったの?」
『うん、っていうか、明日先生と会おうと決めてから全然眠れなかったの・・。』
「でも、約束していたわけじゃないから、会えるかどうかも判らなかっただろう?」
『うん、でも会えるって信じてた。』
「それで会ったら、眠っちゃったんだ。」
『そう。先生の顔を見たらね、安心しちゃったんだと思う。』
香澄は唇に付いたクリームを舌でペロッと舐めながら言ったが、二人の秘密を持ってしまった所為か、それが何だか妙にエロい感じがした。
香澄とそういう関係になったからといって、会うたびにセックスをしていたわけではない。なんと言っても彼女は受験生だったし、僕は香澄の受験の妨げになるようなことはしたくなかった。
2015/04/11
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