中11 〖家庭教師の誤算 第17回〗
中11 〖家庭教師の誤算 第17回〗
エプロン姿の松本香澄(18歳)は、狭い台所をクルクルと動き回った。既に、勝手知ったる他人の家状態で、香澄は手際良く夕飯の支度を整えて行った。厨房から追い出されて、手持無沙汰になった僕(二宮直記)はテレビを見ているしかなかった。
『できたよ。』
香澄に呼ばれて食卓を見てみると、古いアパートの部屋には不釣り合いな豪華なステーキとボウルに盛ったサラダとカップスープそれと高級なワインが並んでいた。
「すごいご馳走だね。」
『ふふっw、ちょっと頑張っちゃった。』
褒められて気を良くした香澄はご機嫌だった。向かい合って座り、僕たちは食事に手を合わせる。
「いただきます!」
『これも食べてね。』
食卓に着くと、霜降り肉の大きなステーキを前にして、香澄は自分の肉を三等分すると真ん中の一番いいところを僕のお皿に移した。
「いいよ、香澄が食べなよ。」そう言って遠慮したのだけど、香澄は『いいの、いいの。』と言って取り合わなかった。「食べたねぇ、ご馳走さまでした。」満腹のお腹を摩りながら僕が言うと、香澄はワインをグラスに入れてくれる。「香澄ちゃん、おめでとう。」と言うと彼女が涙目になり『ありが・・とう。』と答えた。
酔ってきたので、「今更こんなことを訊くのも何だけど・・・、香澄は、知り合って間もない僕が初めての相手でよかったの?」最初は不思議そうな顔をしていた香澄だったが、直ぐに頭の上に電球がピコンと灯って言った。
『先生のことは前から知っていたよ?』
「えっ?前からって?」
『私が高1と高2の時、時々電車で一緒になっていたのを知らなかった?』
「そうなの?ごめん、全然気づいてなかったよ。」
『ううん。先生はお年寄りや妊婦さんが目の前に立つといつも席を譲ってた。』
「あぁ、それは、お袋に小さい頃に躾けられて、クセみたいなもんなんだ。」
『うん、でも私には新鮮だった。』
香澄が僕のそんなところを見ていたとは驚きだった。
『でもね、高3になった途端先生に会えなくなった。電車の時間を早めても、遅くしてもダメだったわ。』
「あぁ、それは僕が3年になってキャンパスが変わったんだ。」
『うん、先生の大学のこと調べてやっとわかった。だから、学校を一日サボって先生の大学の校門の前で待ってたの・・。』
「僕が登校するかどうかもわからないのに?」
『・・でもそうでもしないと、もう二度と先生に会えないと思った・・・。』
「それで、香澄は僕をみつけたの?」
『もちろん。校門の向かいにコーヒーショップがあるでしょ?』
「あぁ、でも僕はコーヒーを飲まないから入ったことないな。」
『知ってるよ。』
「まるで、探偵だな。」
香澄はまたしても“ふふっ”と笑うと話を続けた。
2015/10/27
エプロン姿の松本香澄(18歳)は、狭い台所をクルクルと動き回った。既に、勝手知ったる他人の家状態で、香澄は手際良く夕飯の支度を整えて行った。厨房から追い出されて、手持無沙汰になった僕(二宮直記)はテレビを見ているしかなかった。
『できたよ。』
香澄に呼ばれて食卓を見てみると、古いアパートの部屋には不釣り合いな豪華なステーキとボウルに盛ったサラダとカップスープそれと高級なワインが並んでいた。
「すごいご馳走だね。」
『ふふっw、ちょっと頑張っちゃった。』
褒められて気を良くした香澄はご機嫌だった。向かい合って座り、僕たちは食事に手を合わせる。
「いただきます!」
『これも食べてね。』
食卓に着くと、霜降り肉の大きなステーキを前にして、香澄は自分の肉を三等分すると真ん中の一番いいところを僕のお皿に移した。
「いいよ、香澄が食べなよ。」そう言って遠慮したのだけど、香澄は『いいの、いいの。』と言って取り合わなかった。「食べたねぇ、ご馳走さまでした。」満腹のお腹を摩りながら僕が言うと、香澄はワインをグラスに入れてくれる。「香澄ちゃん、おめでとう。」と言うと彼女が涙目になり『ありが・・とう。』と答えた。
酔ってきたので、「今更こんなことを訊くのも何だけど・・・、香澄は、知り合って間もない僕が初めての相手でよかったの?」最初は不思議そうな顔をしていた香澄だったが、直ぐに頭の上に電球がピコンと灯って言った。
『先生のことは前から知っていたよ?』
「えっ?前からって?」
『私が高1と高2の時、時々電車で一緒になっていたのを知らなかった?』
「そうなの?ごめん、全然気づいてなかったよ。」
『ううん。先生はお年寄りや妊婦さんが目の前に立つといつも席を譲ってた。』
「あぁ、それは、お袋に小さい頃に躾けられて、クセみたいなもんなんだ。」
『うん、でも私には新鮮だった。』
香澄が僕のそんなところを見ていたとは驚きだった。
『でもね、高3になった途端先生に会えなくなった。電車の時間を早めても、遅くしてもダメだったわ。』
「あぁ、それは僕が3年になってキャンパスが変わったんだ。」
『うん、先生の大学のこと調べてやっとわかった。だから、学校を一日サボって先生の大学の校門の前で待ってたの・・。』
「僕が登校するかどうかもわからないのに?」
『・・でもそうでもしないと、もう二度と先生に会えないと思った・・・。』
「それで、香澄は僕をみつけたの?」
『もちろん。校門の向かいにコーヒーショップがあるでしょ?』
「あぁ、でも僕はコーヒーを飲まないから入ったことないな。」
『知ってるよ。』
「まるで、探偵だな。」
香澄はまたしても“ふふっ”と笑うと話を続けた。
2015/10/27
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