中Ⅱ17[自己犠牲と長続き]第三章その1(11)
中Ⅱ17[自己犠牲と長続き]第三章その1(11)
第二章その5(10)
黒沢(雅之:くろさわ・まさゆき:45歳)さんとの打ち合わせが終わってから一週間が過ぎ、私(山下一雄:やました・かずお:49歳)にとって念願の日が訪れます。今日は土曜日。 朝起きて外を見やると、あいにくの雨模様・・・しとしと、細かい雨が降っていました。
先日来、全国各地で大雨注意報が出ていたので仕方ありませんが、部屋の中にいても肌寒いほどです。うっとうしい鈍色の空に、じと~っとした湿っぽさ・・・何だか、心の中で引き摺っている私の後ろめたい気持ちにぴったりのような気がしました。
窓を開け、新聞を広げていると、台所から匂ってくる焼き魚とネギの香り・・・相も変らぬ朝食前のひとコマですが、トントンという包丁の音にしみじみとしたものを感じます。
《 二 ~ 三日前に食べた魚もおいしかったが、今日の朝食はシメサバの炙りか、 ハマチ焼きか? いつもながら食べ物は、どこで誰と食べるよりも、やっぱり、妻(山下芳恵:やました・よしえ:45歳)がつくってくれた手料理に限る・・・》
でも、心なしか、台所から聞こえてくる包丁の音が、普段より小気味よく感じられるのは気のせいでしょうか?まさか、うきうきルンルンではないと思いますが、私が思っているのと同じように妻にしても、今夜のことが、ふっと脳裏をかすめているに違いありません。しかし、面と向かって、そのことは口にしない方がいいのでしょう。今夜のことは、もう十分に、お互いが合点しているはずなのですから・・・。
待ち合わせの場所は、私たちの住んでいる所から車で一時間ばかり離れた街の住宅街でした。ここにあるレストランで夕食を済ませてから、その後車をちょっと走らせて、ホテルへ向かうことになっています。黒沢さんを待っている間、色々、妻が私に話しかけてきますが、心の中には重たいものがあって、口からは生返事しか出てきませんでした。
ホテルの部屋に入ったら、今、私の隣にいる妻の傍には黒沢さんがいることになるのだと
思うと、自然に、黙りこみたくなってしまうのです。恐らく、妻にしても、気になることがいっぱいあるとは思いますが、あれこれ 無理して私に話しかけてくるところを見ていると、私より数段、人間ができているとしか思えません。
妻との時間を持て余しているうちに、〔やあ、お待たせ。〕と、ようやく、黒沢さんがにっこり笑いながらやってきました。パールライラックのシャツに、バイオレット色のジャケットをひっかけています。妻好みの色をさらっと着こなしているところを見ると、密かに期するところがあるのでしょう。
〔お久しぶりです。お元気そうで・・・。〕
私たちの向かいの席に着いた黒沢さんが、妻に声をかけてきました。
『こんばんは・・。』
黒沢さんの顏を見ないまま、妻の芳恵が、遠慮がちに小さな会釈をおくる。 第三章その2(12)へ
2017/11/05
第二章その5(10)
黒沢(雅之:くろさわ・まさゆき:45歳)さんとの打ち合わせが終わってから一週間が過ぎ、私(山下一雄:やました・かずお:49歳)にとって念願の日が訪れます。今日は土曜日。 朝起きて外を見やると、あいにくの雨模様・・・しとしと、細かい雨が降っていました。
先日来、全国各地で大雨注意報が出ていたので仕方ありませんが、部屋の中にいても肌寒いほどです。うっとうしい鈍色の空に、じと~っとした湿っぽさ・・・何だか、心の中で引き摺っている私の後ろめたい気持ちにぴったりのような気がしました。
窓を開け、新聞を広げていると、台所から匂ってくる焼き魚とネギの香り・・・相も変らぬ朝食前のひとコマですが、トントンという包丁の音にしみじみとしたものを感じます。
《 二 ~ 三日前に食べた魚もおいしかったが、今日の朝食はシメサバの炙りか、 ハマチ焼きか? いつもながら食べ物は、どこで誰と食べるよりも、やっぱり、妻(山下芳恵:やました・よしえ:45歳)がつくってくれた手料理に限る・・・》
でも、心なしか、台所から聞こえてくる包丁の音が、普段より小気味よく感じられるのは気のせいでしょうか?まさか、うきうきルンルンではないと思いますが、私が思っているのと同じように妻にしても、今夜のことが、ふっと脳裏をかすめているに違いありません。しかし、面と向かって、そのことは口にしない方がいいのでしょう。今夜のことは、もう十分に、お互いが合点しているはずなのですから・・・。
待ち合わせの場所は、私たちの住んでいる所から車で一時間ばかり離れた街の住宅街でした。ここにあるレストランで夕食を済ませてから、その後車をちょっと走らせて、ホテルへ向かうことになっています。黒沢さんを待っている間、色々、妻が私に話しかけてきますが、心の中には重たいものがあって、口からは生返事しか出てきませんでした。
ホテルの部屋に入ったら、今、私の隣にいる妻の傍には黒沢さんがいることになるのだと
思うと、自然に、黙りこみたくなってしまうのです。恐らく、妻にしても、気になることがいっぱいあるとは思いますが、あれこれ 無理して私に話しかけてくるところを見ていると、私より数段、人間ができているとしか思えません。
妻との時間を持て余しているうちに、〔やあ、お待たせ。〕と、ようやく、黒沢さんがにっこり笑いながらやってきました。パールライラックのシャツに、バイオレット色のジャケットをひっかけています。妻好みの色をさらっと着こなしているところを見ると、密かに期するところがあるのでしょう。
〔お久しぶりです。お元気そうで・・・。〕
私たちの向かいの席に着いた黒沢さんが、妻に声をかけてきました。
『こんばんは・・。』
黒沢さんの顏を見ないまま、妻の芳恵が、遠慮がちに小さな会釈をおくる。 第三章その2(12)へ
2017/11/05
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