中23<気持ち>第8回
中23<気持ち>第8回
第7回
日曜日の夕方、出張から妻(来栖有紀:くるす・ゆき:39歳)が帰って来る。帰宅してからは、妙に口数が多く楽しげに振舞っていました。仕事の事や出会った人間の話等、私(来栖正敏:くるす・まさとし43歳)には興味のない話を長々と話した後に、『やっぱり家はいいわぁ。ホテルだと何だか安らげないのよ。たった数日なのに疲れちゃうわ。』と、こう締めました。
人は後ろめたい時に、口数が多くなるか無口になるのかどちらかだと言います。・・・さて妻は、どちらなのでしょうか・・・それは直ぐに、はっきりするのです。だから、ここでは何も知らない顔をして聞いているのが得策なのだと思って我慢したのでした。
少なくない費用が掛かるだけあって、結果が出るのは早いものです。全ての資料を提示されたのは、妻が帰った三日後でした。報告によると出発した金曜日は確かに出張と言えるでしょう。しかし、仕事は当日で終わっていると記されています。その気ならば当日か次の日に帰宅出来るのにしなかったのは、あの男と合流するためでした。
写真に写っている妻はスカート姿(出発時はパンツスーツ)で、男の趣味に合わせているのでしょう。裏切りを裏付けるに充分な証拠写真等が揃っています。見せられた時の心境は複雑、いや、職員の前で表情を強張らせるほど大きなショックを受けました。妻の有紀に不信感を持っていても、心の何処かで信じたいと思っていたのでしょう。
どれほど動揺していたかって、興信所から出てはじめての交差点で赤信号を見逃してしまう。もう少しで車にぶつけてしまいそうになったのが物語っています。私はこんなことを起こした経験がありません。
調査資料には男の名前が石川信夫とあり、妻の有紀と同じ会社の社員です。如何やって調べたのか年齢までも記入されています。27歳で独身。《一回りも違う相手との不倫か。有紀のやつ何を考えているんだ》体力の有り余る年下の男にしがみついて腰を振る妻の痴態が目に浮かんでしまいました。
それもフェチと自ら公言していたからには、ストッキングを穿かせたままの情事の光景です。パソコンでエロサイトを見ていた時に、そんな画像をみた事がありました。《有紀は本当に、そんな姿で抱かれているのか?》胸の中に得体の知れない黒い感情が芽生えるのを必死で押さえようとしますがその成長を止めれません。
帰宅をすると先に帰っていた妻は、私の行動に気付いているはずもなく陽気に話し掛けてきます。
『お帰りなさい。お腹空いたでしょう?ご飯の用意しているから、もう少し待ってね。先にお風呂に入ってくれたら丁度いい時間になるわ。ねぇ、暇になったら一緒に旅行でもしない?久しぶりに貴方とゆっくり過ごしたいわ。』
そんな有紀の言葉に唖然としてしまいます。若い男と不倫旅行に行ったばかりで、今度は私とかい。妻にしてみれば後ろめたさを感じ機嫌を取っているつもりかも知れませんが、この無神経さに開いた口が塞がりません。
「そうだな。そんな日が来るといいな。」
皮肉を込めての返答です。
『あら、時間って作らなきゃ出来ないのよ。』
「作ろうと思ったら出来るかもな。でも、その気がないから出来ないのさ。」
『なんか機嫌悪いね。嫌な事でもあったの?』
何も気付いていないのです。夫婦生活が長く、お互いの行動に無関心になってしまったのを、逆手に取ったつもりなのかもしれません。
「あったさ!」
鋭い言い方に何か感じたのかもしれません。振り返らないその姿に緊張感を感じました。
「飯は要らないから、少し話そうか?」
『・・・・・・』
「こっちに来てくれ!」
『もうすぐ出来るから。ちょっと待っていて。』
妻は気を落ち着かせているのでしょう。
「食欲がないんだ。今は話の方を先にしたい。どうせ食えないから止めていい。」
私の前に腰掛けた妻の表情が硬く見えるのは気のせいでしょうか? 第9回へ続く
2016/01/10
第7回
日曜日の夕方、出張から妻(来栖有紀:くるす・ゆき:39歳)が帰って来る。帰宅してからは、妙に口数が多く楽しげに振舞っていました。仕事の事や出会った人間の話等、私(来栖正敏:くるす・まさとし43歳)には興味のない話を長々と話した後に、『やっぱり家はいいわぁ。ホテルだと何だか安らげないのよ。たった数日なのに疲れちゃうわ。』と、こう締めました。
人は後ろめたい時に、口数が多くなるか無口になるのかどちらかだと言います。・・・さて妻は、どちらなのでしょうか・・・それは直ぐに、はっきりするのです。だから、ここでは何も知らない顔をして聞いているのが得策なのだと思って我慢したのでした。
少なくない費用が掛かるだけあって、結果が出るのは早いものです。全ての資料を提示されたのは、妻が帰った三日後でした。報告によると出発した金曜日は確かに出張と言えるでしょう。しかし、仕事は当日で終わっていると記されています。その気ならば当日か次の日に帰宅出来るのにしなかったのは、あの男と合流するためでした。
写真に写っている妻はスカート姿(出発時はパンツスーツ)で、男の趣味に合わせているのでしょう。裏切りを裏付けるに充分な証拠写真等が揃っています。見せられた時の心境は複雑、いや、職員の前で表情を強張らせるほど大きなショックを受けました。妻の有紀に不信感を持っていても、心の何処かで信じたいと思っていたのでしょう。
どれほど動揺していたかって、興信所から出てはじめての交差点で赤信号を見逃してしまう。もう少しで車にぶつけてしまいそうになったのが物語っています。私はこんなことを起こした経験がありません。
調査資料には男の名前が石川信夫とあり、妻の有紀と同じ会社の社員です。如何やって調べたのか年齢までも記入されています。27歳で独身。《一回りも違う相手との不倫か。有紀のやつ何を考えているんだ》体力の有り余る年下の男にしがみついて腰を振る妻の痴態が目に浮かんでしまいました。
それもフェチと自ら公言していたからには、ストッキングを穿かせたままの情事の光景です。パソコンでエロサイトを見ていた時に、そんな画像をみた事がありました。《有紀は本当に、そんな姿で抱かれているのか?》胸の中に得体の知れない黒い感情が芽生えるのを必死で押さえようとしますがその成長を止めれません。
帰宅をすると先に帰っていた妻は、私の行動に気付いているはずもなく陽気に話し掛けてきます。
『お帰りなさい。お腹空いたでしょう?ご飯の用意しているから、もう少し待ってね。先にお風呂に入ってくれたら丁度いい時間になるわ。ねぇ、暇になったら一緒に旅行でもしない?久しぶりに貴方とゆっくり過ごしたいわ。』
そんな有紀の言葉に唖然としてしまいます。若い男と不倫旅行に行ったばかりで、今度は私とかい。妻にしてみれば後ろめたさを感じ機嫌を取っているつもりかも知れませんが、この無神経さに開いた口が塞がりません。
「そうだな。そんな日が来るといいな。」
皮肉を込めての返答です。
『あら、時間って作らなきゃ出来ないのよ。』
「作ろうと思ったら出来るかもな。でも、その気がないから出来ないのさ。」
『なんか機嫌悪いね。嫌な事でもあったの?』
何も気付いていないのです。夫婦生活が長く、お互いの行動に無関心になってしまったのを、逆手に取ったつもりなのかもしれません。
「あったさ!」
鋭い言い方に何か感じたのかもしれません。振り返らないその姿に緊張感を感じました。
「飯は要らないから、少し話そうか?」
『・・・・・・』
「こっちに来てくれ!」
『もうすぐ出来るから。ちょっと待っていて。』
妻は気を落ち着かせているのでしょう。
「食欲がないんだ。今は話の方を先にしたい。どうせ食えないから止めていい。」
私の前に腰掛けた妻の表情が硬く見えるのは気のせいでしょうか? 第9回へ続く
2016/01/10
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