短Ⅱ26〖心の隙〗第15話
短Ⅱ26〖心の隙〗第15話
第14話
日曜日の朝、私(明戸郁夫:いくお:33歳)は午前10時に目を覚ましました。子ども達はもう出かけてしまったようで、家には私しかいません。おそらく長女が作っておいてくれた朝食を食べ、私は一人リビングルームのソファに座っていました。ついこの前、妻(明戸理紗:あけど・りさ:35歳)と所長(田中良明:53歳)がここでセックスしていたのが、もう遠い過去のことのように思えます。
それから私は何もする気が起らず、ただ、じーっと座っていました。私の頬を温かいものが伝います。私は昔の事を思い出しました。部活に入って、初めて理紗を見たときのこと。理紗との初めてのデート。結婚前のごたごた。結婚が決まって、妻を私のもので初めて女にした日のこと。初めての妊娠のときの妻の喜んだ顔。出産を終えたときに見た、母親になった妻の顔…。私は、何時間そうやって過ごしていたのでしょう。
“ガチャ、ガチャ”と玄関の鍵が開けられる音がして、人が入ってきたような気がしました。それで私は玄関にいきました。理紗です! 妻(明戸理紗:あけど・りさ:35歳)は出かけていったときの姿で、帰ってきました。
『ただいま帰りました。』
「理紗。帰ってきてくれたんだな。ありがとう。たまらなく不安だったんだよ。」
『子ども達は?』
「二人とも出かけている。夕方過ぎにならないと帰ってこないらしい。」
私は思い切り妻の理紗を抱きしめます。
そして私たちはリビングのソファに座りました。そこで妻が口を開きます。
『あなた。わたし、とんでもないわがままや過ちをおかしてしまって、本当にごめんなさい。わたし出掛けるときには、正直言って、まだ迷っていました。あなたの妻、娘たちの母親のままでいたほうがいいのか、あなたや子ども達を捨ててでも、田中所長のところに行くほうがいいのか・・・。』
妻の理紗は一気に話しました。
『でも・・・所長が転勤になるかもしれないっていうことは、前から分っていたんです。わた
しは所長を本気で愛してしまったし、所長もわたしのことを第一に考えてくれるなら、わたしは全てを捨てて所長の元へ行ってもいいとまで、以前には思っていたの・・・そして、これもわたしが考えたことなんだけど、もし所長がこのままの関係だけを続ける気なら、所長があの会社を辞めて、この街周辺で多少給料は安くても再就職の口くらいなら、何とでもなりそうなものだと思っていたわ。』
『けれど、所長はまだ当分あの会社にしがみついて生きていくために、転勤を受け入れる意思を頑として変えないの。所長が自分ひとりだけなら、あるいはわたし一人くらいを養うようなことになっても、仮にあの会社を辞めたとしても、なんとかなりそうなものなのに、所長には全くその気はなかったの。』
『結局所長にとっては、会社にしがみつくことで成り立っている自分自身の生活が一番で、わたしは二番か、それ以下でしかなかったのね。所長は、〔(わたしを)いずれ必ず妻に迎えるから、ご主人(あなた)と離婚して転勤先について来てくれ〕って言ってたけど、わたしは、それは出来ないって、キッパリ断りました。』 第16話へ続く
2016/06/21
第14話
日曜日の朝、私(明戸郁夫:いくお:33歳)は午前10時に目を覚ましました。子ども達はもう出かけてしまったようで、家には私しかいません。おそらく長女が作っておいてくれた朝食を食べ、私は一人リビングルームのソファに座っていました。ついこの前、妻(明戸理紗:あけど・りさ:35歳)と所長(田中良明:53歳)がここでセックスしていたのが、もう遠い過去のことのように思えます。
それから私は何もする気が起らず、ただ、じーっと座っていました。私の頬を温かいものが伝います。私は昔の事を思い出しました。部活に入って、初めて理紗を見たときのこと。理紗との初めてのデート。結婚前のごたごた。結婚が決まって、妻を私のもので初めて女にした日のこと。初めての妊娠のときの妻の喜んだ顔。出産を終えたときに見た、母親になった妻の顔…。私は、何時間そうやって過ごしていたのでしょう。
“ガチャ、ガチャ”と玄関の鍵が開けられる音がして、人が入ってきたような気がしました。それで私は玄関にいきました。理紗です! 妻(明戸理紗:あけど・りさ:35歳)は出かけていったときの姿で、帰ってきました。
『ただいま帰りました。』
「理紗。帰ってきてくれたんだな。ありがとう。たまらなく不安だったんだよ。」
『子ども達は?』
「二人とも出かけている。夕方過ぎにならないと帰ってこないらしい。」
私は思い切り妻の理紗を抱きしめます。
そして私たちはリビングのソファに座りました。そこで妻が口を開きます。
『あなた。わたし、とんでもないわがままや過ちをおかしてしまって、本当にごめんなさい。わたし出掛けるときには、正直言って、まだ迷っていました。あなたの妻、娘たちの母親のままでいたほうがいいのか、あなたや子ども達を捨ててでも、田中所長のところに行くほうがいいのか・・・。』
妻の理紗は一気に話しました。
『でも・・・所長が転勤になるかもしれないっていうことは、前から分っていたんです。わた
しは所長を本気で愛してしまったし、所長もわたしのことを第一に考えてくれるなら、わたしは全てを捨てて所長の元へ行ってもいいとまで、以前には思っていたの・・・そして、これもわたしが考えたことなんだけど、もし所長がこのままの関係だけを続ける気なら、所長があの会社を辞めて、この街周辺で多少給料は安くても再就職の口くらいなら、何とでもなりそうなものだと思っていたわ。』
『けれど、所長はまだ当分あの会社にしがみついて生きていくために、転勤を受け入れる意思を頑として変えないの。所長が自分ひとりだけなら、あるいはわたし一人くらいを養うようなことになっても、仮にあの会社を辞めたとしても、なんとかなりそうなものなのに、所長には全くその気はなかったの。』
『結局所長にとっては、会社にしがみつくことで成り立っている自分自身の生活が一番で、わたしは二番か、それ以下でしかなかったのね。所長は、〔(わたしを)いずれ必ず妻に迎えるから、ご主人(あなた)と離婚して転勤先について来てくれ〕って言ってたけど、わたしは、それは出来ないって、キッパリ断りました。』 第16話へ続く
2016/06/21
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