中9〖妻の写真集〗 Vol.4
中9〖妻の写真集〗 Vol.4
あれから数日が過ぎ、いよいよ杏璃の友人である美佳さんが撮影を行った《KOMATU写真館》に夫婦で出かける事にしました。今回は撮影の依頼と打ち合わせが目的です。写真館のオーナー兼カメラマンの小松という男性は50代後半の白髪で髭をたくわえた紳士でした。
私たち夫婦にコーヒーとお茶菓子を用意して笑顔で応対する姿は、とてもカメラマンという芸術家風ではなく、その物腰は丁寧な営業マンのような感じです。
〔浜崎美佳さんからお話は伺っていましたよ。〕
本題である写真撮影の話を始めると、小松氏は笑顔で語りました。
〔奥様は来月30歳になられるということで…それは、それは、おめでとうございます。〕
〔30歳おめでとう。〕と他人から言われ、気恥ずかしさで顔を赤らめて下を向く妻の杏璃とその横に座っている私に小松氏は話を続けます。〔わたしも昔はプロのカメラマンを志望していましたけど、上手くいくのは選ばれたほんの一握りの人間だけで、結局私はこのような写真館をするのが精一杯でしたよ。それでもいい写真を撮りたいという情熱は今でも少しも冷めていないですけどね。〕
小松氏は私立の有名な幼稚園や小学校での専属カメラマンでもあり、自宅を改装したスタジオでは記念撮影などをしているそうだ。最近はデジタルカメラの普及で、写真の現像などの仕事はほとんどなくなってしまったが、その分カメラマンとしての仕事に再び情熱をもって打ち込めるようになったと言いました。
「あの、ヌード写真の依頼って結構あるんですか?」私は興味本位ではなく、実際に妻のようなまったくの素人が本当にヌード撮影をお願いすることがあるのだろうかと、素直な疑問をぶつけてみました。
小松氏は〔そうですね。うちみたいな家族写真とかを主に扱っている所にはなかなかそのようなお客さんは来てくれませんけど、最近ではヌード写真を専門に扱っているスタジオが盛況を博していると聞きますよ。20歳の記念ヌードとか、奥様のように30歳の記念ヌードとかは全然珍しいことではないですね。それに還暦を記念して自分のヌード写真を撮る人もいるとか・・・。〕笑顔でそう語ります。
「か、還暦記念ヌードですか?」
〔女性はいくつになっても自分の美への欲求があるのでしょうね。〕
私は仕事で若い女性のヌードを見られるカメラマンをうらやましいとも思ったが、“60歳の還暦ヌードは”勘弁して欲しいとその時なんとなく思った。
「あのー、一つ質問なんですが、撮影の当日私も見学させてもらえますか?」
他人に撮影される妻の姿を生で見なければ、私の欲求を果たすことは出来ません。今回の
件で私が一番気にしていた事なので、はっきりとそのことだけは確認しておきたかったのです。〔もちろんですよ。大切な奥様の撮影なんですからご主人には立ち会ってもらわなくてはなりませんから。〕小松氏の言葉は私を安心させるには充分でした。
小松氏が〔それに女性は見られれば見られるほど美しくなるんですよ。だから撮影の時にはご夫婦が信頼できる安全な方ならどなたでも見学してもらってかまいませんよ。その方がきっと美しい写真ができるはずです。〕
書類を整理しながら話す小松氏の言葉に私たち二人はびっくりしました。私は「えっ!他の人に見学を?」思いもしない小松氏の言葉に心臓を一刺しされたくらいの衝撃を受けました。『そ、そんな・・・無理です・・。』妻の杏璃は消え入りそうな声でそう答えました。
〔確かに自分の裸をご主人以外の人間に見せるなんて日常ではあり得ませんよね。でも、あなたは今の姿を記録に残しておきたいと考えたんですよね。〕
『え、ええ・・』と杏璃が肯定をする。
〔だったら出来るだけ美しい姿を残しましょうよ。〕
小松氏は妻の正面に座りなおすと、真剣なまなざしを杏璃へ向けてそう語りました。
『でも、見学させるだなんて・・・。』
〔ちょっと乱暴な言い方でしたね。実際にはご家族や恋人以外の方を連れてこられる方は
いません。でも、見学者がいるくらいの方が緊張感があり、より美しい写真を残せるのです。それに、私自身への戒めのためでもあるんです。〕
「戒めって?」
私は小松氏の言葉の意味を問いただしました。
〔こう見えてましも私も男ですから。こんな美しいご婦人が自分の目の前で裸になれば、
変な気分になってしまうものです。でもギャラリーがいればカメラマンとしての自制心を失わなくてすみます。でも任してください。ギャラリーがご主人だけでも、あなたならきっと美しい写真が撮れる。私のカメラマンとしての直感でそう確信できます。〕
小松氏にそう言われると、杏璃は恥ずかしそうにうつむくばかりでした。
撮影の段取り、撮影が終わってから写真集が出来上がるまでの工程、費用のことなど、小松氏から諸々の説明を受け、私の不安も少しずつ解消していく。妻の杏璃も緊張がほどけて笑顔が見られるようになった時でした。
〚ただいまっ。花園小学校の音楽会の写真の件、打ち合わせをしてきました。〛
突然写真館に突然入ってきたのは、背の高い若い男性でした。
〚あっ、お客さんでしたか。失礼しました。〛
そう言うとその男性は私たちに頭を下げると、中に入っていきました。
〔彼はうちで働いてくれている広田くんです。大学を出てきちんとした会社に就職していたのに、カメラマンの夢が捨てられず、会社を辞めて専門学校で勉強しながらうちで働いているんですよ。〕小松氏は突然入ってきた若い男性の紹介をしました。
2015/03/16
あれから数日が過ぎ、いよいよ杏璃の友人である美佳さんが撮影を行った《KOMATU写真館》に夫婦で出かける事にしました。今回は撮影の依頼と打ち合わせが目的です。写真館のオーナー兼カメラマンの小松という男性は50代後半の白髪で髭をたくわえた紳士でした。
私たち夫婦にコーヒーとお茶菓子を用意して笑顔で応対する姿は、とてもカメラマンという芸術家風ではなく、その物腰は丁寧な営業マンのような感じです。
〔浜崎美佳さんからお話は伺っていましたよ。〕
本題である写真撮影の話を始めると、小松氏は笑顔で語りました。
〔奥様は来月30歳になられるということで…それは、それは、おめでとうございます。〕
〔30歳おめでとう。〕と他人から言われ、気恥ずかしさで顔を赤らめて下を向く妻の杏璃とその横に座っている私に小松氏は話を続けます。〔わたしも昔はプロのカメラマンを志望していましたけど、上手くいくのは選ばれたほんの一握りの人間だけで、結局私はこのような写真館をするのが精一杯でしたよ。それでもいい写真を撮りたいという情熱は今でも少しも冷めていないですけどね。〕
小松氏は私立の有名な幼稚園や小学校での専属カメラマンでもあり、自宅を改装したスタジオでは記念撮影などをしているそうだ。最近はデジタルカメラの普及で、写真の現像などの仕事はほとんどなくなってしまったが、その分カメラマンとしての仕事に再び情熱をもって打ち込めるようになったと言いました。
「あの、ヌード写真の依頼って結構あるんですか?」私は興味本位ではなく、実際に妻のようなまったくの素人が本当にヌード撮影をお願いすることがあるのだろうかと、素直な疑問をぶつけてみました。
小松氏は〔そうですね。うちみたいな家族写真とかを主に扱っている所にはなかなかそのようなお客さんは来てくれませんけど、最近ではヌード写真を専門に扱っているスタジオが盛況を博していると聞きますよ。20歳の記念ヌードとか、奥様のように30歳の記念ヌードとかは全然珍しいことではないですね。それに還暦を記念して自分のヌード写真を撮る人もいるとか・・・。〕笑顔でそう語ります。
「か、還暦記念ヌードですか?」
〔女性はいくつになっても自分の美への欲求があるのでしょうね。〕
私は仕事で若い女性のヌードを見られるカメラマンをうらやましいとも思ったが、“60歳の還暦ヌードは”勘弁して欲しいとその時なんとなく思った。
「あのー、一つ質問なんですが、撮影の当日私も見学させてもらえますか?」
他人に撮影される妻の姿を生で見なければ、私の欲求を果たすことは出来ません。今回の
件で私が一番気にしていた事なので、はっきりとそのことだけは確認しておきたかったのです。〔もちろんですよ。大切な奥様の撮影なんですからご主人には立ち会ってもらわなくてはなりませんから。〕小松氏の言葉は私を安心させるには充分でした。
小松氏が〔それに女性は見られれば見られるほど美しくなるんですよ。だから撮影の時にはご夫婦が信頼できる安全な方ならどなたでも見学してもらってかまいませんよ。その方がきっと美しい写真ができるはずです。〕
書類を整理しながら話す小松氏の言葉に私たち二人はびっくりしました。私は「えっ!他の人に見学を?」思いもしない小松氏の言葉に心臓を一刺しされたくらいの衝撃を受けました。『そ、そんな・・・無理です・・。』妻の杏璃は消え入りそうな声でそう答えました。
〔確かに自分の裸をご主人以外の人間に見せるなんて日常ではあり得ませんよね。でも、あなたは今の姿を記録に残しておきたいと考えたんですよね。〕
『え、ええ・・』と杏璃が肯定をする。
〔だったら出来るだけ美しい姿を残しましょうよ。〕
小松氏は妻の正面に座りなおすと、真剣なまなざしを杏璃へ向けてそう語りました。
『でも、見学させるだなんて・・・。』
〔ちょっと乱暴な言い方でしたね。実際にはご家族や恋人以外の方を連れてこられる方は
いません。でも、見学者がいるくらいの方が緊張感があり、より美しい写真を残せるのです。それに、私自身への戒めのためでもあるんです。〕
「戒めって?」
私は小松氏の言葉の意味を問いただしました。
〔こう見えてましも私も男ですから。こんな美しいご婦人が自分の目の前で裸になれば、
変な気分になってしまうものです。でもギャラリーがいればカメラマンとしての自制心を失わなくてすみます。でも任してください。ギャラリーがご主人だけでも、あなたならきっと美しい写真が撮れる。私のカメラマンとしての直感でそう確信できます。〕
小松氏にそう言われると、杏璃は恥ずかしそうにうつむくばかりでした。
撮影の段取り、撮影が終わってから写真集が出来上がるまでの工程、費用のことなど、小松氏から諸々の説明を受け、私の不安も少しずつ解消していく。妻の杏璃も緊張がほどけて笑顔が見られるようになった時でした。
〚ただいまっ。花園小学校の音楽会の写真の件、打ち合わせをしてきました。〛
突然写真館に突然入ってきたのは、背の高い若い男性でした。
〚あっ、お客さんでしたか。失礼しました。〛
そう言うとその男性は私たちに頭を下げると、中に入っていきました。
〔彼はうちで働いてくれている広田くんです。大学を出てきちんとした会社に就職していたのに、カメラマンの夢が捨てられず、会社を辞めて専門学校で勉強しながらうちで働いているんですよ。〕小松氏は突然入ってきた若い男性の紹介をしました。
2015/03/16
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