中11 〖家庭教師の誤算 第2回〗
中11 〖家庭教師の誤算 第2回〗
頭の回転は悪くないようなので、その日初めて、僕(二宮直記)は香澄(かすみ)に好感が持てた。「僕なりに理由はあるんですけど、こうしませんか。香澄ちゃんが問題を一問解いて正解をしたら、僕が香澄ちゃんの質問にひとつ答える。どうですか?」
『どんな質問でもいいの?』
「構わない。」
『それなら、するよ。』
香澄は涼しい顔で答えると教科書と僕を見比べて目で“どれ?”と尋ねる。僕がさっき言った練習問題を指すと、香澄はノートを取り出してサラサラと問題を解き始めた。一分も経たないうちに、『できたよ。』と言ってノートから顔を上げた。
僕は半信半疑でノートを覗き込むと答えは合っている。「じゃあ、これとこれを。」ちょっと悔しくて大人げないけど、授業ではまだ習っていないかもしれない教科書の真ん中あたりの練習問題を指してみるとこれも直ぐにサラサラと解いて見せた。
“ウソだろ?”信じられなかった。僕はムキになって、教科書の最後の方の問題を二つ選ぶ。「これとこれも解いてみて。」香澄は直ぐにノートに鉛筆を走らせると瞬く間に解いてしまった。
「香澄ちゃん、どうして・・・?」僕は脱帽だった。香澄が『ストップ!質問はわたし!先生、問題を解いたのはわたしだよ。』確かにそうだ。目で続きを促すと、『五つ解いたから、五つ質問できるよね?』と言うので僕は頷くしかない。
『嘘の答えはダメだよ。』
「わかっている。」
『先生、わたしを見てダメな子だと思ったでしょう?』
僕は正直に頷いた。
『どうして丁寧語じゃなくなったの?』
“しまった!”思わず我を忘れて普通に喋ってしまっていた・・・。
「多分驚いたからだと思う。」
僕が素直に告げると、香澄は満足そうに頷いて、
『あと三つはとっておくね。』
と言われた。
香澄が悪戯っぽい目をして、『先生、もっと問題出して!』と言ったが、僕は直ぐに白旗を上げた。勝てない勝負を続けたら、泥沼にハマる。香澄にどんどん問題を解かれたら、僕は何でも洗いざらい喋らされて香澄に丸裸にされてしまうと思った。
「ねぇ、どうして香澄ちゃん、勉強できないふりをしたの?」
香澄は少し悪戯っぽい笑みを浮かべると言った。
『先生の方は問題解いてないけど、特別サービスで答えてあげるね。』
“これはまた、一本取られた・・・。”
そう思ったのが顔に出たのか、香澄はクスリと笑うと続ける。
『でも、わたしは、出来ないふりなんかしてないよ。』
「えっ?」
『先生がわたしを見て勝手にそう思い込んだだけよ。』
言われてみればそうだ。確かに僕は香澄の見た目に惑わされてしまった。
「どうしてそんな風に思われるような態度を取っているの?」
『あの先生?もう質問の権利ないんですけどぉ。』
僕は苦笑しながら香澄にはっきりと言葉で白旗を揚げる。
「降参だよ。だから、普通に喋ってもいいかな?」香澄は特に僕をやり込めた風な態度は見せず、ニッコリ笑うとあっさり『いいよ。』と言った。「僕には聞きたいことは色々あるけど、しばらくお話しする?それとも勉強を続ける?」香澄は少し考える素振りを見せて、『わたし勉強するよ。先生はそこで好きなことしていてね。』と言った。
2015/03/18
頭の回転は悪くないようなので、その日初めて、僕(二宮直記)は香澄(かすみ)に好感が持てた。「僕なりに理由はあるんですけど、こうしませんか。香澄ちゃんが問題を一問解いて正解をしたら、僕が香澄ちゃんの質問にひとつ答える。どうですか?」
『どんな質問でもいいの?』
「構わない。」
『それなら、するよ。』
香澄は涼しい顔で答えると教科書と僕を見比べて目で“どれ?”と尋ねる。僕がさっき言った練習問題を指すと、香澄はノートを取り出してサラサラと問題を解き始めた。一分も経たないうちに、『できたよ。』と言ってノートから顔を上げた。
僕は半信半疑でノートを覗き込むと答えは合っている。「じゃあ、これとこれを。」ちょっと悔しくて大人げないけど、授業ではまだ習っていないかもしれない教科書の真ん中あたりの練習問題を指してみるとこれも直ぐにサラサラと解いて見せた。
“ウソだろ?”信じられなかった。僕はムキになって、教科書の最後の方の問題を二つ選ぶ。「これとこれも解いてみて。」香澄は直ぐにノートに鉛筆を走らせると瞬く間に解いてしまった。
「香澄ちゃん、どうして・・・?」僕は脱帽だった。香澄が『ストップ!質問はわたし!先生、問題を解いたのはわたしだよ。』確かにそうだ。目で続きを促すと、『五つ解いたから、五つ質問できるよね?』と言うので僕は頷くしかない。
『嘘の答えはダメだよ。』
「わかっている。」
『先生、わたしを見てダメな子だと思ったでしょう?』
僕は正直に頷いた。
『どうして丁寧語じゃなくなったの?』
“しまった!”思わず我を忘れて普通に喋ってしまっていた・・・。
「多分驚いたからだと思う。」
僕が素直に告げると、香澄は満足そうに頷いて、
『あと三つはとっておくね。』
と言われた。
香澄が悪戯っぽい目をして、『先生、もっと問題出して!』と言ったが、僕は直ぐに白旗を上げた。勝てない勝負を続けたら、泥沼にハマる。香澄にどんどん問題を解かれたら、僕は何でも洗いざらい喋らされて香澄に丸裸にされてしまうと思った。
「ねぇ、どうして香澄ちゃん、勉強できないふりをしたの?」
香澄は少し悪戯っぽい笑みを浮かべると言った。
『先生の方は問題解いてないけど、特別サービスで答えてあげるね。』
“これはまた、一本取られた・・・。”
そう思ったのが顔に出たのか、香澄はクスリと笑うと続ける。
『でも、わたしは、出来ないふりなんかしてないよ。』
「えっ?」
『先生がわたしを見て勝手にそう思い込んだだけよ。』
言われてみればそうだ。確かに僕は香澄の見た目に惑わされてしまった。
「どうしてそんな風に思われるような態度を取っているの?」
『あの先生?もう質問の権利ないんですけどぉ。』
僕は苦笑しながら香澄にはっきりと言葉で白旗を揚げる。
「降参だよ。だから、普通に喋ってもいいかな?」香澄は特に僕をやり込めた風な態度は見せず、ニッコリ笑うとあっさり『いいよ。』と言った。「僕には聞きたいことは色々あるけど、しばらくお話しする?それとも勉強を続ける?」香澄は少し考える素振りを見せて、『わたし勉強するよ。先生はそこで好きなことしていてね。』と言った。
2015/03/18
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