長U〖綾乃の想い〗第1章その3 03
長U〖綾乃の想い〗第1章その3 03
《早めに作って少し寝かした方が美味しいのよねぇ。》キッチンにスパイシーな香りが漂う。妻の藤澤綾乃(あやの30歳)がコトコトと煮込まれている鍋の中を嬉しそうに笑顔で覗く。《ン~♪フフッ・・・今日のは特別美味しくできそうだわ。》鼻歌交じりで綾乃は楽しそうに料理をする。素敵な出会いの予感。それだけが綾乃の頭の中をいっぱいにしていた。
「ただいま~。」
夜、夫の藤澤良一(37歳)が仕事から帰ってくると、キッチンから綾乃が慌てた様子で玄関まで来る。
『お帰り~!ねぇねぇ今日お隣さんがね!』
「おぅ、引っ越してきたみたいだな。部屋の明かりが点いていたな。」
『え~!見た?見たの?どんな人だったか見た?』
少し興奮した様子でそう聞く綾乃に、落ち着いた様子で良一は答える。
「どうしたんだよ?そんなに興奮して。見てないよ、そのうちに挨拶に来るんじゃないか?」
『なんだぁ……見てないんだぁ……。』
残念そうに俯く綾乃に、良一は微笑みながら靴を脱ぐ。珍しく子供のようにはしゃぐ綾乃が可愛らしく見えた。
「お?今日はカレー?」
部屋に漂う、家庭的で安心できるあの香りに気付いた良一が今晩の献立を当ててみせた。
『うん、そうよ。今日のは特別美味しいよ、きっとね。』
「へぇ~気合入れたんだぁ今日のは。どれどれ……。」
良一はそう言いながらスーツのままキッチンに入って行き、コンロに置いてある少し大きめの鍋の中を覗き込む。
『フフッ……どう?美味しそうでしょ?』
そう嬉しそうに笑顔で良一に訊く綾乃。しかし妻とは逆に良一の表情は鍋の中を見た瞬間曇ってしまった。
「……おい綾乃……こんなに多く作ってどうするんだ?この量じゃあと3日はカレーを食べ続けないと無くならないぞ……。」
『ん~だって、もしかしてお隣さんが今日は引っ越して来たばかりで、晩御飯の用意してないかもしれないじゃない?』
当然のような顔をしてそう話す綾乃を見た良一は、ため息を漏らした。
「はぁ……なぁ綾乃、まだお隣さんがどんなご家族か分からないだろ?山口さんみたいにフレンドリーとは限らないかも。」
『うん……でもぉ……。』
「それに、山口さんみたいに社交的な家族は今時珍しいぞ!」
良一は説得するように淡々と話す。しかし今の綾乃の耳にはあまりその言葉は届かないらしい。
『……ん~大丈夫よ!きっと今度のご家族も良い人達だわ。私、そんな予感がするの。』
「おいおい、あんまり期待しすぎて、後で落ち込むなよぉ。」
『そんな事ないわよ!はぁ……いいわよもう。カレーは残ったら冷凍すれば良いんだし。ほらぁ早く服着替えてきて。あ!お隣さんが来ても恥ずかしくない服よ!』
「はいはい……。」
良一の冷めた態度に少し怒り気味の綾乃、どうやらお隣に対する期待が1週間待っている内に綾乃の方だけ膨らみ過ぎてしまったようだ。
2015/09/05
《早めに作って少し寝かした方が美味しいのよねぇ。》キッチンにスパイシーな香りが漂う。妻の藤澤綾乃(あやの30歳)がコトコトと煮込まれている鍋の中を嬉しそうに笑顔で覗く。《ン~♪フフッ・・・今日のは特別美味しくできそうだわ。》鼻歌交じりで綾乃は楽しそうに料理をする。素敵な出会いの予感。それだけが綾乃の頭の中をいっぱいにしていた。
「ただいま~。」
夜、夫の藤澤良一(37歳)が仕事から帰ってくると、キッチンから綾乃が慌てた様子で玄関まで来る。
『お帰り~!ねぇねぇ今日お隣さんがね!』
「おぅ、引っ越してきたみたいだな。部屋の明かりが点いていたな。」
『え~!見た?見たの?どんな人だったか見た?』
少し興奮した様子でそう聞く綾乃に、落ち着いた様子で良一は答える。
「どうしたんだよ?そんなに興奮して。見てないよ、そのうちに挨拶に来るんじゃないか?」
『なんだぁ……見てないんだぁ……。』
残念そうに俯く綾乃に、良一は微笑みながら靴を脱ぐ。珍しく子供のようにはしゃぐ綾乃が可愛らしく見えた。
「お?今日はカレー?」
部屋に漂う、家庭的で安心できるあの香りに気付いた良一が今晩の献立を当ててみせた。
『うん、そうよ。今日のは特別美味しいよ、きっとね。』
「へぇ~気合入れたんだぁ今日のは。どれどれ……。」
良一はそう言いながらスーツのままキッチンに入って行き、コンロに置いてある少し大きめの鍋の中を覗き込む。
『フフッ……どう?美味しそうでしょ?』
そう嬉しそうに笑顔で良一に訊く綾乃。しかし妻とは逆に良一の表情は鍋の中を見た瞬間曇ってしまった。
「……おい綾乃……こんなに多く作ってどうするんだ?この量じゃあと3日はカレーを食べ続けないと無くならないぞ……。」
『ん~だって、もしかしてお隣さんが今日は引っ越して来たばかりで、晩御飯の用意してないかもしれないじゃない?』
当然のような顔をしてそう話す綾乃を見た良一は、ため息を漏らした。
「はぁ……なぁ綾乃、まだお隣さんがどんなご家族か分からないだろ?山口さんみたいにフレンドリーとは限らないかも。」
『うん……でもぉ……。』
「それに、山口さんみたいに社交的な家族は今時珍しいぞ!」
良一は説得するように淡々と話す。しかし今の綾乃の耳にはあまりその言葉は届かないらしい。
『……ん~大丈夫よ!きっと今度のご家族も良い人達だわ。私、そんな予感がするの。』
「おいおい、あんまり期待しすぎて、後で落ち込むなよぉ。」
『そんな事ないわよ!はぁ……いいわよもう。カレーは残ったら冷凍すれば良いんだし。ほらぁ早く服着替えてきて。あ!お隣さんが来ても恥ずかしくない服よ!』
「はいはい……。」
良一の冷めた態度に少し怒り気味の綾乃、どうやらお隣に対する期待が1週間待っている内に綾乃の方だけ膨らみ過ぎてしまったようだ。
2015/09/05
- 関連記事
-
- 長U〖綾乃の想い〗第1章その1 01 (2015/08/22)
- 長U〖綾乃の想い〗第1章その2 02 (2015/08/27)
- 長U〖綾乃の想い〗第1章その3 03 (2015/09/05)
- 長U〖綾乃の想い〗第1章その4 04 (2015/09/11)
- 長U〖綾乃の想い〗第1章その5 05 (2015/09/19)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その1 06 (2015/09/27)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その2 07 (2015/10/03)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その3 08 (2015/10/20)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その4 09 (2015/10/24)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その5 10 (2015/10/31)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その6 11 (2015/11/06)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その7 12 (2015/11/15)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その8 13 (2015/11/23)
- 長U〖綾乃の想い〗第2章その9 14 (2015/11/28)
- 長U〖綾乃の想い〗第3章その1 15 (2015/12/02)
コメント
コメントの投稿