長U〖綾乃の想い〗第1章その2 02
長U〖綾乃の想い〗第1章その2 02
「あ、そういえばさっき管理人さんに会ったんだけど、うちの隣、空いてるだろ?そこに新しく誰か引っ越してくるみたいだぞ。」
仕事から帰ってきた夫の藤澤良一(37歳)がスーツの上着を脱ぎながらそう言った。
『え?そうなの?へぇ……隣、山口さんが引越しをしてからずっと空いていたものねぇ。また家族連れかしら?』
良一が脱いだ上着を丁寧にハンガーに掛け、藤澤綾乃(あやの30歳)はスーツに付いたホコリなどをチェックする。このマンションの良一と綾乃が住んでいる部屋の隣には、一年前まで山口という4人家族が住んでいた。山口家は夫婦と子供が2人という家族構成。とても優しくて感じの良い夫婦で、私達とは仲が良かった。
共働きの山口夫婦が仕事で忙しい時に綾乃が2人の子供を何度か預かっていた事もあったし、お互いの部屋に作った料理を持ち寄って共に楽しい食事の時間を過ごした事も何度もあった。しかし残念な事に1年前、山口家はご主人が仕事で転勤する事になり、遠い県外へ引っ越してしまったのだ。
今でも時々綾乃は奥さんと連絡を取り合っているが、これだけ遠い事もあって引っ越してからは1度も会っていない。専業主婦の綾乃は、良一とここに引っ越してきて最初にできた友人が山口さん夫婦であったから、居なくなってしまってからは寂しい思いもしていた。
「いや、詳しくは聞いてないから分からないけど、きっと家族連れじゃないか?このマンションに住んでいる殆どがそうなんだし、夫婦2人だけの俺達は珍しいくらいだ。」
『そっかぁ、そうだよね……また良い人達が隣に来てくれたらいいなぁ。』
「山口さんみたいな社交的な家族だといいけどな。」
近所間、家族間などの関係が気薄になってきている今の時代だが、綾乃と良一は山口家との良い出会いを経験しているため、新しく隣に引っ越してくる人との出会いに、期待に胸を膨らませる。特に綾乃の中では、余程山口家と過ごした時間が良い思い出として強く残っていたのか、その引越し話を聞いてからずっと嬉しそうにしていて機嫌が良かった。
『・・・どんなご家族が来るのかしら・・・フフッ・・・楽しみだわ・・・。』
そして、それから1週間後、引越し会社のトラックが来て隣の部屋に荷物を入れ始めた。どうやら今日が入居日らしい。土曜の昼間、良一がたまたま仕事でいないため1人で部屋にいた綾乃は、窓から下に来ているトラックを何度も見て、落ち着かない様子で過ごしていた。《ん~もうお隣に来てるのかなぁ・・・ちょっとだけ顔出してみようかなぁ・・・でも急に覗きに行っても変よね・・・あ~気になるなぁ。》
普通なら今晩にでもお隣である良一と綾乃の所に引越しの挨拶に来るだろう。でも綾乃はそれが待てないくらいにお隣の事が気になって気になって仕方なかった。《ふぅ・・・なんかジッとして居られないわ・・・ちょっと早いけど、晩御飯の用意でもしておこうかな。》深呼吸をして気持ちを落ち着かせた綾乃は、冷蔵庫を開けて今晩の献立を考える。
《んー・・・よしっ!カレーライスにしよっと。》綾乃が今晩の献立をカレーライスにしたのには理由があった。カレーライスは綾乃の得意料理の一つでもあり、山口家の家族が美味しいと絶賛してくれて、綾乃がよく作っては部屋に呼んでいた、そんな思い出のある料理なのだ。綾乃は心のどこかで新しく引っ越してくる家族を山口家と重ねていた。きっと良い人達だと、そう願っての心理だったのだろう。
2015/08/27
「あ、そういえばさっき管理人さんに会ったんだけど、うちの隣、空いてるだろ?そこに新しく誰か引っ越してくるみたいだぞ。」
仕事から帰ってきた夫の藤澤良一(37歳)がスーツの上着を脱ぎながらそう言った。
『え?そうなの?へぇ……隣、山口さんが引越しをしてからずっと空いていたものねぇ。また家族連れかしら?』
良一が脱いだ上着を丁寧にハンガーに掛け、藤澤綾乃(あやの30歳)はスーツに付いたホコリなどをチェックする。このマンションの良一と綾乃が住んでいる部屋の隣には、一年前まで山口という4人家族が住んでいた。山口家は夫婦と子供が2人という家族構成。とても優しくて感じの良い夫婦で、私達とは仲が良かった。
共働きの山口夫婦が仕事で忙しい時に綾乃が2人の子供を何度か預かっていた事もあったし、お互いの部屋に作った料理を持ち寄って共に楽しい食事の時間を過ごした事も何度もあった。しかし残念な事に1年前、山口家はご主人が仕事で転勤する事になり、遠い県外へ引っ越してしまったのだ。
今でも時々綾乃は奥さんと連絡を取り合っているが、これだけ遠い事もあって引っ越してからは1度も会っていない。専業主婦の綾乃は、良一とここに引っ越してきて最初にできた友人が山口さん夫婦であったから、居なくなってしまってからは寂しい思いもしていた。
「いや、詳しくは聞いてないから分からないけど、きっと家族連れじゃないか?このマンションに住んでいる殆どがそうなんだし、夫婦2人だけの俺達は珍しいくらいだ。」
『そっかぁ、そうだよね……また良い人達が隣に来てくれたらいいなぁ。』
「山口さんみたいな社交的な家族だといいけどな。」
近所間、家族間などの関係が気薄になってきている今の時代だが、綾乃と良一は山口家との良い出会いを経験しているため、新しく隣に引っ越してくる人との出会いに、期待に胸を膨らませる。特に綾乃の中では、余程山口家と過ごした時間が良い思い出として強く残っていたのか、その引越し話を聞いてからずっと嬉しそうにしていて機嫌が良かった。
『・・・どんなご家族が来るのかしら・・・フフッ・・・楽しみだわ・・・。』
そして、それから1週間後、引越し会社のトラックが来て隣の部屋に荷物を入れ始めた。どうやら今日が入居日らしい。土曜の昼間、良一がたまたま仕事でいないため1人で部屋にいた綾乃は、窓から下に来ているトラックを何度も見て、落ち着かない様子で過ごしていた。《ん~もうお隣に来てるのかなぁ・・・ちょっとだけ顔出してみようかなぁ・・・でも急に覗きに行っても変よね・・・あ~気になるなぁ。》
普通なら今晩にでもお隣である良一と綾乃の所に引越しの挨拶に来るだろう。でも綾乃はそれが待てないくらいにお隣の事が気になって気になって仕方なかった。《ふぅ・・・なんかジッとして居られないわ・・・ちょっと早いけど、晩御飯の用意でもしておこうかな。》深呼吸をして気持ちを落ち着かせた綾乃は、冷蔵庫を開けて今晩の献立を考える。
《んー・・・よしっ!カレーライスにしよっと。》綾乃が今晩の献立をカレーライスにしたのには理由があった。カレーライスは綾乃の得意料理の一つでもあり、山口家の家族が美味しいと絶賛してくれて、綾乃がよく作っては部屋に呼んでいた、そんな思い出のある料理なのだ。綾乃は心のどこかで新しく引っ越してくる家族を山口家と重ねていた。きっと良い人達だと、そう願っての心理だったのだろう。
2015/08/27
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