中24『愛の絆(きずな)』 第5回
中24『愛の絆(きずな)』 第5回
諸口惣一(40歳)が運転する白色のフェアレディが稲沢詩音(しおん:28歳)を乗せて、市街地を抜け、川沿いの土手を整備して造られた道路を上流へと走る。しばらくすると、小高い丘陵に整然と開発された住宅街が視界に入ってくる。そこは、市内で高額所得者が住まいを構えている高級住宅街だ。道路も公園も整備され、道行く人の服装は個性的でセンスが良く、皆上品な人に見えた。
〔さあ、着いたよ・・・あれが俺の家で、手前が今度オープンする純喫茶のお店だ。〕
(チーフから、聞いたことがある・・・オーナーが新しい店を建設中だと・・・。)
〔さあ、中を案内しよう。〕
店内は既に調度品も搬入され、全てが整っていた。室内は落ち着きのある雰囲気で、柱、椅子、机・・・すべてが訪れる人を優しく包むインテリアを用いている。
『オーナー・・・どうして、私をここに?』と詩音が訝(いぶか)る。
〔まあ、慌てないで・・・そこに座って・・・俺が珈琲をいれるから〕
厨房の中で、諸口は珈琲をたてる。その姿はイライラとして指示をだす男のイメージとは
対称的に、この店に相応して落ち着いた振る舞いである。
〔さあ、どうぞ・・・お気に召すかな?〕
(目の前のこの人・・・いつも、こんな雰囲気でいればいいのにな)
『美味しい・・とても美味しいです。』
〔良かった・・気に入ってもらって。〕
詩音は珈琲の芳しい香りを楽しむ。室内には音楽が流れる。それは昔の外国のミュージック。詩音の心は日々の煩(わずら)わしさから逃れ一時の休息に浸っていた。諸口はにこ
やかに詩音を見つめ、詩音も微笑みを自然と返していた。
〔詩音くん・・・話というのは、この店を手伝ってほしいんだ。こういうお店をやるのが、俺の夢だった・・・そのパートナーになってほしい。〕
『私が?・・・・私には、とても無理です・・・こんなお店。』
〔大丈夫だよ・・・詩音くんは合格だ・・・ずっと観察していたんだから。〕
『でも・・・こんなお店に出るのに着る服すら、私には・・・。』
〔黙って、これに着替えてごらん・・・きっと、やる気が起こるよ。〕
諸口が差し出したのは仕事着だった。それはシンプルだが高級な白のブラウスに、黒のロングスカート。それに黒のストッキングとハイヒールも・・・その仕事着にじっと見入って、詩音は迷っている。(なんて素敵な仕事着・・・折角だから身につけてみようかしら・・・それからでも・・)
〔着てみないと分からないよ・・・着替えはその衝立の向こうでやればいい。そうだ・・今日、詩音くん、カメラを持っていたね。それで写真を撮ろうよ。その写真を見てから、判断すればいい・・・きっと似合っているから・・・。〕
カメラ・・そうだ、今日のオーナー巡回のとき・・親しいお客さんに頼まれて夫のカメラで撮影をしていた。(それを諸口はみていたのかな?)決心した詩音が仕事着を手に持ち衝立の方に歩きだす。その後姿に男の目が鋭く反応していた。
2015/10/06
諸口惣一(40歳)が運転する白色のフェアレディが稲沢詩音(しおん:28歳)を乗せて、市街地を抜け、川沿いの土手を整備して造られた道路を上流へと走る。しばらくすると、小高い丘陵に整然と開発された住宅街が視界に入ってくる。そこは、市内で高額所得者が住まいを構えている高級住宅街だ。道路も公園も整備され、道行く人の服装は個性的でセンスが良く、皆上品な人に見えた。
〔さあ、着いたよ・・・あれが俺の家で、手前が今度オープンする純喫茶のお店だ。〕
(チーフから、聞いたことがある・・・オーナーが新しい店を建設中だと・・・。)
〔さあ、中を案内しよう。〕
店内は既に調度品も搬入され、全てが整っていた。室内は落ち着きのある雰囲気で、柱、椅子、机・・・すべてが訪れる人を優しく包むインテリアを用いている。
『オーナー・・・どうして、私をここに?』と詩音が訝(いぶか)る。
〔まあ、慌てないで・・・そこに座って・・・俺が珈琲をいれるから〕
厨房の中で、諸口は珈琲をたてる。その姿はイライラとして指示をだす男のイメージとは
対称的に、この店に相応して落ち着いた振る舞いである。
〔さあ、どうぞ・・・お気に召すかな?〕
(目の前のこの人・・・いつも、こんな雰囲気でいればいいのにな)
『美味しい・・とても美味しいです。』
〔良かった・・気に入ってもらって。〕
詩音は珈琲の芳しい香りを楽しむ。室内には音楽が流れる。それは昔の外国のミュージック。詩音の心は日々の煩(わずら)わしさから逃れ一時の休息に浸っていた。諸口はにこ
やかに詩音を見つめ、詩音も微笑みを自然と返していた。
〔詩音くん・・・話というのは、この店を手伝ってほしいんだ。こういうお店をやるのが、俺の夢だった・・・そのパートナーになってほしい。〕
『私が?・・・・私には、とても無理です・・・こんなお店。』
〔大丈夫だよ・・・詩音くんは合格だ・・・ずっと観察していたんだから。〕
『でも・・・こんなお店に出るのに着る服すら、私には・・・。』
〔黙って、これに着替えてごらん・・・きっと、やる気が起こるよ。〕
諸口が差し出したのは仕事着だった。それはシンプルだが高級な白のブラウスに、黒のロングスカート。それに黒のストッキングとハイヒールも・・・その仕事着にじっと見入って、詩音は迷っている。(なんて素敵な仕事着・・・折角だから身につけてみようかしら・・・それからでも・・)
〔着てみないと分からないよ・・・着替えはその衝立の向こうでやればいい。そうだ・・今日、詩音くん、カメラを持っていたね。それで写真を撮ろうよ。その写真を見てから、判断すればいい・・・きっと似合っているから・・・。〕
カメラ・・そうだ、今日のオーナー巡回のとき・・親しいお客さんに頼まれて夫のカメラで撮影をしていた。(それを諸口はみていたのかな?)決心した詩音が仕事着を手に持ち衝立の方に歩きだす。その後姿に男の目が鋭く反応していた。
2015/10/06
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