長Ⅱ6〔償い〕第6回
長Ⅱ6〔償い〕第6回
第5回
オーディオセットからはアルゼンチンタンゴが薄く流れています。郷原常務からはワインを勧められます。車は首都高速に入っていました。耳には心地良いタンゴの響き、美味しいワインを頂き、車窓には高速道路の街灯、街のネオンの煌びやかな灯りが流れていく様が映っています。
チョコレートを摘(つま)みにワインのグラスを重ねます。常務の郷原俊夫(ごうはら・としお:52歳)も終始無言でワインを飲んでいます。時々私の顔を見ているのが雰囲気で解りました。この雰囲気と、頼もしい男の方が横の座席に座っています。私(木内翔子:きうち・しょうこ:46歳)は夢見心地でした。
〔翔子くん、少し酔ったのかな? 頬がピンクに染まっているよ。〕
『ええ、少し・・。』
〔それじゃ、いいものがある。これを飲めばいい、酔い止めだ。〕
そう言って郷原常務はポケットからカプセルを出し、その中身を私のワイングラスに注ぎ
ます。後で主人から、私は媚薬漬けにされていた事を知らされますが、この時それは知る由もありません。私は郷原常務の好意として受け取っていました。
飲むほどに心地良い酔いが体を包みます。暫くすると心臓の動悸が早くなり、全身が熱くなってきます。
〔どうした?〕
『ええ、何か体があついんです・・・それにすこし眠くて・・。』
〔しばらく眠るといい。良ければ僕の肩にもたれかかりなさい。〕
『はい。そうさせていただきます・・。』
私は目を閉じます。そして知らず知らずに郷原常務の肩に頭を預けていきました。常務はそっと私の髪を優しく撫でてくれます。それから私の耳元でこう囁きました。
〔横顔もとても綺麗だ。僕のものにしたい。〕
『いけません。私なんか常務には似合いません。それに私には夫がいます・・。』
そう口で拒絶をしてはいても、手を払いのける事は出来ません。“綺麗だ”こんな言葉を主人(木内啓吾:けいご:48歳)から聞いたのはもう遠い昔の事でした。私はこのままこの場の雰囲気に浸っていたかったのです。
すると突然、郷原常務が口づけをしてきました。『あ!いやっ、だめです。』って郷原常務の胸を小さく押します。それは形だけの拒絶です。常務に抱きしめられ、胸を押していた私の手は彼の背中に回ります。いつしか2人は抱擁する形になりました。
抱き締められるととても気持ちが良くなります。この人の懐の中で眠っていたい、このまま融けてしまいたい、そんな気持ちになってしまいました。主人の事が頭をかすめますが、それを払いのけます。ここで気持ちをふりしぼって、止める事が出来た筈です。でも出来なかった、いやしなかったのです。
この心地良さには結局勝てませんでした。頭ではいけない事だと解っていても、体が言う事を聞きません。頭が体に負けてしまったのです。それ以後も郷原常務と会った時には、何時もそう言う状態になりました。食事をし、お酒を飲んで暫くすると体が熱く燃えてきます。そしてこの“炎”を誰かに鎮めて欲しくなってしまいました。
2016/04/20
第5回
オーディオセットからはアルゼンチンタンゴが薄く流れています。郷原常務からはワインを勧められます。車は首都高速に入っていました。耳には心地良いタンゴの響き、美味しいワインを頂き、車窓には高速道路の街灯、街のネオンの煌びやかな灯りが流れていく様が映っています。
チョコレートを摘(つま)みにワインのグラスを重ねます。常務の郷原俊夫(ごうはら・としお:52歳)も終始無言でワインを飲んでいます。時々私の顔を見ているのが雰囲気で解りました。この雰囲気と、頼もしい男の方が横の座席に座っています。私(木内翔子:きうち・しょうこ:46歳)は夢見心地でした。
〔翔子くん、少し酔ったのかな? 頬がピンクに染まっているよ。〕
『ええ、少し・・。』
〔それじゃ、いいものがある。これを飲めばいい、酔い止めだ。〕
そう言って郷原常務はポケットからカプセルを出し、その中身を私のワイングラスに注ぎ
ます。後で主人から、私は媚薬漬けにされていた事を知らされますが、この時それは知る由もありません。私は郷原常務の好意として受け取っていました。
飲むほどに心地良い酔いが体を包みます。暫くすると心臓の動悸が早くなり、全身が熱くなってきます。
〔どうした?〕
『ええ、何か体があついんです・・・それにすこし眠くて・・。』
〔しばらく眠るといい。良ければ僕の肩にもたれかかりなさい。〕
『はい。そうさせていただきます・・。』
私は目を閉じます。そして知らず知らずに郷原常務の肩に頭を預けていきました。常務はそっと私の髪を優しく撫でてくれます。それから私の耳元でこう囁きました。
〔横顔もとても綺麗だ。僕のものにしたい。〕
『いけません。私なんか常務には似合いません。それに私には夫がいます・・。』
そう口で拒絶をしてはいても、手を払いのける事は出来ません。“綺麗だ”こんな言葉を主人(木内啓吾:けいご:48歳)から聞いたのはもう遠い昔の事でした。私はこのままこの場の雰囲気に浸っていたかったのです。
すると突然、郷原常務が口づけをしてきました。『あ!いやっ、だめです。』って郷原常務の胸を小さく押します。それは形だけの拒絶です。常務に抱きしめられ、胸を押していた私の手は彼の背中に回ります。いつしか2人は抱擁する形になりました。
抱き締められるととても気持ちが良くなります。この人の懐の中で眠っていたい、このまま融けてしまいたい、そんな気持ちになってしまいました。主人の事が頭をかすめますが、それを払いのけます。ここで気持ちをふりしぼって、止める事が出来た筈です。でも出来なかった、いやしなかったのです。
この心地良さには結局勝てませんでした。頭ではいけない事だと解っていても、体が言う事を聞きません。頭が体に負けてしまったのです。それ以後も郷原常務と会った時には、何時もそう言う状態になりました。食事をし、お酒を飲んで暫くすると体が熱く燃えてきます。そしてこの“炎”を誰かに鎮めて欲しくなってしまいました。
2016/04/20
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