名I〖愛する人〗第2節2章第3話 [秋9]25
名I〖愛する人〗第2節2章第3話 [秋9]25
前話24
第1話 [夏1]
「そろそろ着替えないと遅れるぞ・・。」と僕(寺川匠真:たくま:36歳)が時計を見ながら三上浩二と佐々木和也を更衣室に促す。じゃあ、後で、ということで二人は、更衣室に消えていった。《まずは・・サプライズ大成功・・・かな?》
しかし喜んでばかりもいられない。僕の横に立っている妻(寺川絵里:えり:34歳)がひょっとしたらこのまま怒って、『もう帰る!』と言い出しかねない状況でもあった。もしかしたら、平手打ちの一発でも飛んでくるかもしれない。そうなってしまっては、もうサプライズどころではない・・・ホラー(恐怖)だ。しかし絵里を説得する作戦は・・・。実は、何も考えていなかった。つまり・・ノープラン。
《さて・・・と・・・》僕は、少し・・いや・・かなりビクビクしながら、妻の横顔を見る。絵里は、男子更衣室の方に無表情の顔を向けたままピクリとも動かない。《うわー・・・怖えぇ・・やっぱホラーだ!》その妻が一言『ふーん・・・そういうことね・・・。』と低い声で言う。まるで僕の悪巧みを全て理解したような一言だった。《これは・・やばい・・・かも・・・謝ろうか・・》
「あっ・・えっ、と・・言ってなくてごめん・・・実は、昨日、急にあいつらからも誘いがあって・・それで・・じゃあ一緒に、ということになって・・・、ごめん、それで、お願い。」
と僕は、両手で妻を拝み倒しながら適当な言い訳を並べ始めます。
妻の絵里は、目を閉じて、ふーーーっ、と深く長い一息つく。
そしてそのまま片手を上げて僕を制しながら言った。
『まあ・・・事情はわかったわ・・・いいわ・・・お二人とも優しそうな方達みたいだし・・・まあ・・・せっかくだから・・・でも・・・。』
その声のトーンは低いままだった。
《“でも”?・・・なんだろう?・・》とドキドキしながらその言葉の続きを待つ。しかし、その続きの言葉は出てこなかったが、代わりに『まあ・・・いいわ・・・。』とだけ絵里が言った。僕はとりあえず「・・・ありがとう・・・。」とだけしか言えない。経験上、こういう時の妻には、余分な言い訳をしない方がいい。そう誠心誠意が一番なのだ。
また絵里が、目を閉じて、ふーーーっ、と息を深く長く吐く。
『・・・わかったわ・・・。そういうことね・・・。わたしは、たくま君の知り合いの山岸エリということね?・・・・』
まるで独り言のようだ・・・。まだ声のトーンが低いぞ。それには僕がもう一度「・・・ありがとう・・・。」とだけしか言えない。
閉じていた目を開いた妻の絵里がまだ前を向いたまま、
『まあ、いいわ・・・フフッ・・・そういうことなら・・・わたしも楽しませてもらうわね・・。』
やっと少しだけ口元に笑みを浮かべる。
「・・ありがとう・・・。」
僕はそれしか返せなかった。
2016/06/09
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第1話 [夏1]
「そろそろ着替えないと遅れるぞ・・。」と僕(寺川匠真:たくま:36歳)が時計を見ながら三上浩二と佐々木和也を更衣室に促す。じゃあ、後で、ということで二人は、更衣室に消えていった。《まずは・・サプライズ大成功・・・かな?》
しかし喜んでばかりもいられない。僕の横に立っている妻(寺川絵里:えり:34歳)がひょっとしたらこのまま怒って、『もう帰る!』と言い出しかねない状況でもあった。もしかしたら、平手打ちの一発でも飛んでくるかもしれない。そうなってしまっては、もうサプライズどころではない・・・ホラー(恐怖)だ。しかし絵里を説得する作戦は・・・。実は、何も考えていなかった。つまり・・ノープラン。
《さて・・・と・・・》僕は、少し・・いや・・かなりビクビクしながら、妻の横顔を見る。絵里は、男子更衣室の方に無表情の顔を向けたままピクリとも動かない。《うわー・・・怖えぇ・・やっぱホラーだ!》その妻が一言『ふーん・・・そういうことね・・・。』と低い声で言う。まるで僕の悪巧みを全て理解したような一言だった。《これは・・やばい・・・かも・・・謝ろうか・・》
「あっ・・えっ、と・・言ってなくてごめん・・・実は、昨日、急にあいつらからも誘いがあって・・それで・・じゃあ一緒に、ということになって・・・、ごめん、それで、お願い。」
と僕は、両手で妻を拝み倒しながら適当な言い訳を並べ始めます。
妻の絵里は、目を閉じて、ふーーーっ、と深く長い一息つく。
そしてそのまま片手を上げて僕を制しながら言った。
『まあ・・・事情はわかったわ・・・いいわ・・・お二人とも優しそうな方達みたいだし・・・まあ・・・せっかくだから・・・でも・・・。』
その声のトーンは低いままだった。
《“でも”?・・・なんだろう?・・》とドキドキしながらその言葉の続きを待つ。しかし、その続きの言葉は出てこなかったが、代わりに『まあ・・・いいわ・・・。』とだけ絵里が言った。僕はとりあえず「・・・ありがとう・・・。」とだけしか言えない。経験上、こういう時の妻には、余分な言い訳をしない方がいい。そう誠心誠意が一番なのだ。
また絵里が、目を閉じて、ふーーーっ、と息を深く長く吐く。
『・・・わかったわ・・・。そういうことね・・・。わたしは、たくま君の知り合いの山岸エリということね?・・・・』
まるで独り言のようだ・・・。まだ声のトーンが低いぞ。それには僕がもう一度「・・・ありがとう・・・。」とだけしか言えない。
閉じていた目を開いた妻の絵里がまだ前を向いたまま、
『まあ、いいわ・・・フフッ・・・そういうことなら・・・わたしも楽しませてもらうわね・・。』
やっと少しだけ口元に笑みを浮かべる。
「・・ありがとう・・・。」
僕はそれしか返せなかった。
2016/06/09
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