「莉奈と徹さん」 第4話
短I「莉奈と徹さん」 第4話
大きく動いたのは一年前です。俺の住む町の駅から三つ先の町にゴルフ練習場があります。時々、休みを利用して行くのですが、出張帰りに直接帰宅させてもらう事ができ、練習場に行きました。やはりウイークデーは閑散として数人の客がいるだけ…しばらく打っていると…ガチャガチャ!…大きな音と共に、大量のゴルフボールがこちらに転がって来たのです。
見ると、白髪の男がバケツと共に倒れています。何はともあれ、転がるボールを拾いました。
〔すみませーん。〕
男もボールを拾いながら俺に声をかけて近づいて来ました。
「大丈夫ですか?」
〔ハハハ。蹴つまずいちゃって。〕
照れ笑いしながらも、痛かった様で、しきりに足のすねをさすっていました。色の浅黒い、白い歯ときれいな白髪。黒髪も混じり、光が当たると銀色に輝いて見えます。筋肉質な体ですが身長はそれ程でもなく、170cmないかも知れません。50前かな。この時はそんな印象でした。
〔ありがとうございました。〕
「いえ。本当に大丈夫ですか?」
〔そそっかしいから。ハハハ。よくここへは来られるんですか?〕
「ええ。たまに。何時もは土曜か日曜なんですが。」
〔あぁ。俺は土日来てないから。因果な商売で、皆が休みの日に働くんですよ〕
「失礼ですが何を?」
〔この近くでカラオケバー。って言うより、スタンドバーかなぁ?ハハハ。何しろ八人しか座れねぇ。〕
「へぇ。いいじゃないですか。小さくても、一国一城の主(あるじ)ですよ」
〔本当に主一人だけどね、ハハハ。まぁ、気ままだし自宅兼用で家賃もないからやれているだけですよ〕
他愛のない会話のあと、一時間位ボールを打って、帰る事にしました。練習場を出て、駅に向かっていると、後ろから声がしました。
〔ちょっと!ちょっと!兄さん。ちょっと。〕
振り返ると先程の銀髪の男です。
〔俺ンち、すぐそこだから。生ビールでも飲んで行ってよ。〕
「いえ。いいですよ。」
〔お礼。お礼だからさ。頼むよ。〕
肩を抱く様にして、どんどん歩き出しました。店に着くと、カウンターの椅子に座る様に言われ、直ぐに生ビールをジョッキに入れて持ってきました。
〔とりあえず乾杯!ご迷惑をかけました、ハハハ〕
「乾杯!あぁーうまい!なんか反(かえ)ってすみません。ご馳走になっちゃって。」
〔なに言ってんの。はい!改めてまして。〕
そう言うと男は名刺を差し出しました。店の名前と増岡徹とありました。
〔増岡です。〕
「あッ!今、名刺持ってないんですよ。国広真治です。」
こうして、出会った銀髪の男。増岡氏、今は徹(とおる)さんと呼び、俺を真ちゃんと呼ぶ様になりました。
妻の莉奈とも何度か足を運ぶ内に、この店に来る客は、中年の女性が多い事がわかりました。その日は俺と莉奈、常連客らしい男と三人だけだった。
「徹さん。女のお客さんが多いよねぇ。モテモテじゃない」。
〔おばさんばっかだよ!下町のヨン様と呼んでくれ、ハハハ。韓流スターか俺は?!〕
〚お前みてぇな素行の悪いスターがいるかよ!アハハッ〛
だいぶ酔いの回った男が笑いながら茶々(他人の話に割り込んで言う、ひやかしや冗談。)を入れます。
〔うるせぇ。このタケは、若いときからつるんで、悪さした奴でさ。莉奈ちゃん、気にしないでくれな。〕
『ゥフッ。大丈夫ょ。でも、徹さんの若いときの悪さって、聞いてみたいわ?』
〚お嬢ちゃん、俺かよ?こい・・〛
男がしゃべり終らない内に徹さんがたしなめました。
〔タケ!くだらねぇこと言ってねぇで、帰って寝ろ。三咲ちゃんが待っているぞ。〕
タケと呼ばれた男は、それでも話をやめようとしません。
〚こいつは、こう見えて、結構かたい奴でさ。嫁さんを亡くしてから、女絶ちしているんだよ。〛
〔女絶ち?馬鹿野郎。そんなこと誰がするか!ハハハ〕
〚しているじゃねぇか。俺が、母ちゃん貸してやるって言ってんのに。〛
「母ちゃんって、奥さんでしょ?」と俺が驚く。
『いやぁねぇ、奥さんが怒るわよ。』
〔こいつには、俺に嫁さん貸すための条件があるんだよ。〕
〚そのくらいいいじゃないか!一年分位。〛
『一年分って?なに?』莉奈が訊ねる。
〔嫁さんを貸すのに、店で飲む酒代一年分ただにしろって言うんだ。〕
「ワハハハ。」
〔馬鹿野郎!いい話しじゃねぇか。だいぶ傷んできたけどよぉ。〕
『ひどーい!』
〚何が『ひどーい』だ。立派なもの持っているのに宝の持ち腐れじゃねぇか。嫁さんが元気な頃は、女たらしで有名だったんだぞ。〛
「へぇ。徹さん、女たらしだったんだ。」
〔真ちゃん、こいつの話し、本気で聞いちゃだめだ。〕
〚何?!本当じゃねぇか。こいつはねぇ、ちょっとだけいい男だし、アレもでけぇから女が寄って来るんだよ。〛
『ウッフフ。いやァーねぇ。』
〔タケ!遅くなると、また三咲ちゃんに怒られるぞ。〕
〚こいつの死んだ嫁さんとうちの母ちゃんは友達でさぁ。。あッ!あッ!おめぇ。まさか若ぇ時三咲とやってねぇだろうなぁ?〛
〔馬鹿言ってろ!〕
『おなかいたーい。』と莉奈が大笑い。
〚じゃあ帰るとするかな。ツケといてくれ。〛タケちゃんが告げる。
〔ああ。三咲ちゃんを大事にしろよ。〕
徹さんの友達は帰って行きました。
大きく動いたのは一年前です。俺の住む町の駅から三つ先の町にゴルフ練習場があります。時々、休みを利用して行くのですが、出張帰りに直接帰宅させてもらう事ができ、練習場に行きました。やはりウイークデーは閑散として数人の客がいるだけ…しばらく打っていると…ガチャガチャ!…大きな音と共に、大量のゴルフボールがこちらに転がって来たのです。
見ると、白髪の男がバケツと共に倒れています。何はともあれ、転がるボールを拾いました。
〔すみませーん。〕
男もボールを拾いながら俺に声をかけて近づいて来ました。
「大丈夫ですか?」
〔ハハハ。蹴つまずいちゃって。〕
照れ笑いしながらも、痛かった様で、しきりに足のすねをさすっていました。色の浅黒い、白い歯ときれいな白髪。黒髪も混じり、光が当たると銀色に輝いて見えます。筋肉質な体ですが身長はそれ程でもなく、170cmないかも知れません。50前かな。この時はそんな印象でした。
〔ありがとうございました。〕
「いえ。本当に大丈夫ですか?」
〔そそっかしいから。ハハハ。よくここへは来られるんですか?〕
「ええ。たまに。何時もは土曜か日曜なんですが。」
〔あぁ。俺は土日来てないから。因果な商売で、皆が休みの日に働くんですよ〕
「失礼ですが何を?」
〔この近くでカラオケバー。って言うより、スタンドバーかなぁ?ハハハ。何しろ八人しか座れねぇ。〕
「へぇ。いいじゃないですか。小さくても、一国一城の主(あるじ)ですよ」
〔本当に主一人だけどね、ハハハ。まぁ、気ままだし自宅兼用で家賃もないからやれているだけですよ〕
他愛のない会話のあと、一時間位ボールを打って、帰る事にしました。練習場を出て、駅に向かっていると、後ろから声がしました。
〔ちょっと!ちょっと!兄さん。ちょっと。〕
振り返ると先程の銀髪の男です。
〔俺ンち、すぐそこだから。生ビールでも飲んで行ってよ。〕
「いえ。いいですよ。」
〔お礼。お礼だからさ。頼むよ。〕
肩を抱く様にして、どんどん歩き出しました。店に着くと、カウンターの椅子に座る様に言われ、直ぐに生ビールをジョッキに入れて持ってきました。
〔とりあえず乾杯!ご迷惑をかけました、ハハハ〕
「乾杯!あぁーうまい!なんか反(かえ)ってすみません。ご馳走になっちゃって。」
〔なに言ってんの。はい!改めてまして。〕
そう言うと男は名刺を差し出しました。店の名前と増岡徹とありました。
〔増岡です。〕
「あッ!今、名刺持ってないんですよ。国広真治です。」
こうして、出会った銀髪の男。増岡氏、今は徹(とおる)さんと呼び、俺を真ちゃんと呼ぶ様になりました。
妻の莉奈とも何度か足を運ぶ内に、この店に来る客は、中年の女性が多い事がわかりました。その日は俺と莉奈、常連客らしい男と三人だけだった。
「徹さん。女のお客さんが多いよねぇ。モテモテじゃない」。
〔おばさんばっかだよ!下町のヨン様と呼んでくれ、ハハハ。韓流スターか俺は?!〕
〚お前みてぇな素行の悪いスターがいるかよ!アハハッ〛
だいぶ酔いの回った男が笑いながら茶々(他人の話に割り込んで言う、ひやかしや冗談。)を入れます。
〔うるせぇ。このタケは、若いときからつるんで、悪さした奴でさ。莉奈ちゃん、気にしないでくれな。〕
『ゥフッ。大丈夫ょ。でも、徹さんの若いときの悪さって、聞いてみたいわ?』
〚お嬢ちゃん、俺かよ?こい・・〛
男がしゃべり終らない内に徹さんがたしなめました。
〔タケ!くだらねぇこと言ってねぇで、帰って寝ろ。三咲ちゃんが待っているぞ。〕
タケと呼ばれた男は、それでも話をやめようとしません。
〚こいつは、こう見えて、結構かたい奴でさ。嫁さんを亡くしてから、女絶ちしているんだよ。〛
〔女絶ち?馬鹿野郎。そんなこと誰がするか!ハハハ〕
〚しているじゃねぇか。俺が、母ちゃん貸してやるって言ってんのに。〛
「母ちゃんって、奥さんでしょ?」と俺が驚く。
『いやぁねぇ、奥さんが怒るわよ。』
〔こいつには、俺に嫁さん貸すための条件があるんだよ。〕
〚そのくらいいいじゃないか!一年分位。〛
『一年分って?なに?』莉奈が訊ねる。
〔嫁さんを貸すのに、店で飲む酒代一年分ただにしろって言うんだ。〕
「ワハハハ。」
〔馬鹿野郎!いい話しじゃねぇか。だいぶ傷んできたけどよぉ。〕
『ひどーい!』
〚何が『ひどーい』だ。立派なもの持っているのに宝の持ち腐れじゃねぇか。嫁さんが元気な頃は、女たらしで有名だったんだぞ。〛
「へぇ。徹さん、女たらしだったんだ。」
〔真ちゃん、こいつの話し、本気で聞いちゃだめだ。〕
〚何?!本当じゃねぇか。こいつはねぇ、ちょっとだけいい男だし、アレもでけぇから女が寄って来るんだよ。〛
『ウッフフ。いやァーねぇ。』
〔タケ!遅くなると、また三咲ちゃんに怒られるぞ。〕
〚こいつの死んだ嫁さんとうちの母ちゃんは友達でさぁ。。あッ!あッ!おめぇ。まさか若ぇ時三咲とやってねぇだろうなぁ?〛
〔馬鹿言ってろ!〕
『おなかいたーい。』と莉奈が大笑い。
〚じゃあ帰るとするかな。ツケといてくれ。〛タケちゃんが告げる。
〔ああ。三咲ちゃんを大事にしろよ。〕
徹さんの友達は帰って行きました。
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