中10〚新しい夫婦の形〛2章第9話 16
中10〚新しい夫婦の形〛2章第9話 16
いつの間にかもう昼を過ぎていた。僕たちは二人でシャワーをあびて、無言のまま妻の作った昼食を食べた。僕(益岡健人)はなんとなく虚脱感におそわれ、ソファに座って、食事の後片付けをするエプロン姿の妻を見ていた。僕は黙ってキッチンで洗い物をする妻の希美(のぞみ)に近づいていった。
「今日は一日下着でいる約束だよ。」
そう言って僕はゆっくりと妻のエプロンを脱がした。希美はされるまま抵抗しなかった。妻を下着姿にすると、リビングの温度を少し高めに設定して再びソファに腰をかけた。
「さあ、まだ二人残っているよ・・全部話してくれる約束だろ・・・。」
『わかったわ・・。』
そう言った妻の表情がなんとも悲しそうで僕は心を痛めた。希美は僕に入れてくれた紅茶をもって来てくれた。
『一年前の2月に北海道に一人で仕事に行ったのを覚えている?その時に二人の人と・・・。』
そう言って希美は4人目・5人目の男との話をし始める。『去年札幌へ一人でエキシビジョンの仕事で出張した際、その時のクライアントで天野広司さんという人と偶然に出会った。』と言う。天野さんは希美が新入社員の頃に東京のクライアントで大変お世話になった人らしい。物腰のやわらかい紳士的な中年だったようだ。定年を控えて天野さんは札幌の支所に単身で赴任していた。
〔百瀬さんもイベントを一人でこなせるようになったのですね・・いや、失礼、たしかご結婚されたんですよね?〕
『ええ、もう6年前に・・・でも仕事中は今でも百瀬の名前です。』
天野さんに突然声をかけられてびっくりしたのと同時に、懐かしい気持ちがこみ上げてきたと妻は当時を振り返っていた。札幌の郊外にある高層ホテルのレストランでの夜会のあと、妻と天野さんは二人でバーへ行き、そのままベッドを共にしたという。窓の外に見える雪の札幌の幻想的な景色が、妻の心に隙間を作ってしまったようだった。
〔きみとこんなに良い思い出が出来て、最後に札幌に左遷されたかいがあったよ。〕
天野さんはベッドの中でそんな風に妻に言ったそうだ。
また、その次の日は北海道工場の製作部の人に工場を案内された後、帰りの飛行機までまだだいぶ時間があったので、製作部の秋元英明という人に空港近くを案内してもらったそうだ。『あの白いレストラン素敵ですね。』空港近くの林の中にあった白い建物を見てつい妻の希美がもらした。
〔行ってみますか?まだ時間もあることだし。〕そう言って秋元さんはその白い建物の下に車を走らせると、すぐにそれがレストランなどではないことは希美にもわかったそうだ。
〔入ってみます?〕妻の返事を聞かないまま、車はその中に入っていった。前日に天野さんとの一夜のあとで、まだ身体が欲していたのか、何故断りきれなかったのか不思議だったと妻は振り返っていた。
それまでに希美はすべての誘いに応じていたわけではなかった。断った話も聞かせてもらった。『中でも社内では佐々岡喬がしつこかった。』と言う。佐々岡は出張の時以外、東京でも露骨に妻を誘ってきた。
また、『4カ月前に園部君に出張で言い寄られた時は、少しぐらついたが、すぐに自制心を取り戻してきちんと断った。』と言った。そもそも希美は若い社員とは関係を持たないようにしていたと言う。若い男の方が変に束縛欲があり、また地位がないことから比較的口が軽いと言っていた。だから、『いずれ佐々岡や園部あたりから僕の耳に入るだろうと(妻は)恐れていた。』と告白した。
2015/05/21
いつの間にかもう昼を過ぎていた。僕たちは二人でシャワーをあびて、無言のまま妻の作った昼食を食べた。僕(益岡健人)はなんとなく虚脱感におそわれ、ソファに座って、食事の後片付けをするエプロン姿の妻を見ていた。僕は黙ってキッチンで洗い物をする妻の希美(のぞみ)に近づいていった。
「今日は一日下着でいる約束だよ。」
そう言って僕はゆっくりと妻のエプロンを脱がした。希美はされるまま抵抗しなかった。妻を下着姿にすると、リビングの温度を少し高めに設定して再びソファに腰をかけた。
「さあ、まだ二人残っているよ・・全部話してくれる約束だろ・・・。」
『わかったわ・・。』
そう言った妻の表情がなんとも悲しそうで僕は心を痛めた。希美は僕に入れてくれた紅茶をもって来てくれた。
『一年前の2月に北海道に一人で仕事に行ったのを覚えている?その時に二人の人と・・・。』
そう言って希美は4人目・5人目の男との話をし始める。『去年札幌へ一人でエキシビジョンの仕事で出張した際、その時のクライアントで天野広司さんという人と偶然に出会った。』と言う。天野さんは希美が新入社員の頃に東京のクライアントで大変お世話になった人らしい。物腰のやわらかい紳士的な中年だったようだ。定年を控えて天野さんは札幌の支所に単身で赴任していた。
〔百瀬さんもイベントを一人でこなせるようになったのですね・・いや、失礼、たしかご結婚されたんですよね?〕
『ええ、もう6年前に・・・でも仕事中は今でも百瀬の名前です。』
天野さんに突然声をかけられてびっくりしたのと同時に、懐かしい気持ちがこみ上げてきたと妻は当時を振り返っていた。札幌の郊外にある高層ホテルのレストランでの夜会のあと、妻と天野さんは二人でバーへ行き、そのままベッドを共にしたという。窓の外に見える雪の札幌の幻想的な景色が、妻の心に隙間を作ってしまったようだった。
〔きみとこんなに良い思い出が出来て、最後に札幌に左遷されたかいがあったよ。〕
天野さんはベッドの中でそんな風に妻に言ったそうだ。
また、その次の日は北海道工場の製作部の人に工場を案内された後、帰りの飛行機までまだだいぶ時間があったので、製作部の秋元英明という人に空港近くを案内してもらったそうだ。『あの白いレストラン素敵ですね。』空港近くの林の中にあった白い建物を見てつい妻の希美がもらした。
〔行ってみますか?まだ時間もあることだし。〕そう言って秋元さんはその白い建物の下に車を走らせると、すぐにそれがレストランなどではないことは希美にもわかったそうだ。
〔入ってみます?〕妻の返事を聞かないまま、車はその中に入っていった。前日に天野さんとの一夜のあとで、まだ身体が欲していたのか、何故断りきれなかったのか不思議だったと妻は振り返っていた。
それまでに希美はすべての誘いに応じていたわけではなかった。断った話も聞かせてもらった。『中でも社内では佐々岡喬がしつこかった。』と言う。佐々岡は出張の時以外、東京でも露骨に妻を誘ってきた。
また、『4カ月前に園部君に出張で言い寄られた時は、少しぐらついたが、すぐに自制心を取り戻してきちんと断った。』と言った。そもそも希美は若い社員とは関係を持たないようにしていたと言う。若い男の方が変に束縛欲があり、また地位がないことから比較的口が軽いと言っていた。だから、『いずれ佐々岡や園部あたりから僕の耳に入るだろうと(妻は)恐れていた。』と告白した。
2015/05/21
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