中23<気持ち>第4回
中23<気持ち>第4回
私(来栖正敏:くるす・まさとし43歳)が目立たないところに車を止め待っていると、直ぐに妻の有紀(ゆき39歳)が数人の社員と一緒に出て来たのが見えました。車を動かそうとした時、その中の一人の男が戻ってきて有紀と何やら話し始めたのです。
私はその様子をしばし見ていると、妻はしきりに周りを気にしているように見えます。距離が離れているので話の内容は分かりませんが、有紀が困惑しているようで、その男から離れようとするのですが、その男は真紀に付いて来るのでした。
有紀は、私が迎えに来るので焦っているのでしょうか?ドンドンと会社から離れて、ついには私の視界から消えてしまうのでした。交通量の多いこの場所では、車で追うのは難しい。まして細い路地に入られたらアウトです。
私は車を降り、真紀の後を追おうとした時、携帯が鳴りました。『貴方、近くまで来てるの?ごめんなさい。少し遅くなるわ。悪いけど待っていて・・。』妻が話している途中に男の声が入り込んできます。
〔行くなって!〕
「誰かいるのか?声が聞こえたが・・。」
『・・・会社の中だから・・・周りの話し声が入ったのかも?・・・』
これは妻の明らかな嘘。会社を出ているのを私は見たのですから。《あの男が電話の相手なのではないか・・・と思う。》
携帯で話しながらも私は車を降りて二人の姿を追いましたが、見失ってしまいます。仕方なく車に戻り時間を潰すしかないのですが、色んな妄想が頭の中を駆け巡ってじっとしていられません。焦(じ)れた私は真紀に電話をしましたが出ないので、何度も掛け直すととうとう電源が切られてしまいました。
どれだけ車の中で時間が経った事か、一時間は過ぎています。業を煮やし再び電話を掛けましたが音信不通のままです。二人を見失ったのを後悔しましたが今更仕方がありません。
苛立ちを抑えられない私は車を動かし家路につくしかありませんでした。
苛立ちながら車を運転している途中で車を路肩に停めて、私はもう掛けないと誓っていた番号に躊躇しながらも電話を掛けてしまいます。携帯のアドレスには一色(彼女の姓)商会と入れてありますが、それは、万が一、妻に見られてもいいように用心しての事でした。
「来栖です。久しぶりだな。元気だったかい?この街に住んでいるって連絡をくれていたけど、返事しなくて御免な。もし、よかったらこれから会ってくれないか?ちょっと都合が良すぎるかな?」
〖何時か電話くれると思っていた。私のマンションに来てくれてもいいわよ。住所を言うね。〗
私はカーナビに今聞いた住所をインプットしながら、あの時代を思い出します。まだ20代後半の頃、愛し合っていた女性がいました。彼女と知り合う前まで何人かと交際をしましたが、これが恋なのだと教えてくれた女性が、一色亜希(いっしき・あき)でした。
結婚相手はこの人しかいないと思っていましたが若かった私は過ちを犯し、彼女はそれを許してくれなかった。軽い気持ちで別の女性と遊んだのが、ばれてしまったのです。それ
も一度や二度じゃなかったので当然別れることになるが、私は何度も許しを請いましたが駄目でした。
〖凄くあなたを愛していたから、如何(どう)しても許せない!〗彼女が私に告げた最後の言葉です。自分が彼女の気持ちを、どれだけ傷付けてしまったのか、その時にやっと自分自身の愚かさを本当の意味で悟りました。
半年も落ち込み立ち直れないでいる私の耳に聞こえて来たのは、彼女がもう恋人も出来きて幸せそうだと言う話です。【女の割り切り方は凄いんだよ】と、教えてくれたのも彼女でした。
その数年後、愛を育みあった恋人と結ばれた共通の知人から聞かされた時も、大きなショックを受けたものです。私の傷は癒えていなかったのですね。つくづく女々しい男だと思い知りました。そして・・・そんな私を救ってくれたのが妻なのですが・・・。
2015/08/08
私(来栖正敏:くるす・まさとし43歳)が目立たないところに車を止め待っていると、直ぐに妻の有紀(ゆき39歳)が数人の社員と一緒に出て来たのが見えました。車を動かそうとした時、その中の一人の男が戻ってきて有紀と何やら話し始めたのです。
私はその様子をしばし見ていると、妻はしきりに周りを気にしているように見えます。距離が離れているので話の内容は分かりませんが、有紀が困惑しているようで、その男から離れようとするのですが、その男は真紀に付いて来るのでした。
有紀は、私が迎えに来るので焦っているのでしょうか?ドンドンと会社から離れて、ついには私の視界から消えてしまうのでした。交通量の多いこの場所では、車で追うのは難しい。まして細い路地に入られたらアウトです。
私は車を降り、真紀の後を追おうとした時、携帯が鳴りました。『貴方、近くまで来てるの?ごめんなさい。少し遅くなるわ。悪いけど待っていて・・。』妻が話している途中に男の声が入り込んできます。
〔行くなって!〕
「誰かいるのか?声が聞こえたが・・。」
『・・・会社の中だから・・・周りの話し声が入ったのかも?・・・』
これは妻の明らかな嘘。会社を出ているのを私は見たのですから。《あの男が電話の相手なのではないか・・・と思う。》
携帯で話しながらも私は車を降りて二人の姿を追いましたが、見失ってしまいます。仕方なく車に戻り時間を潰すしかないのですが、色んな妄想が頭の中を駆け巡ってじっとしていられません。焦(じ)れた私は真紀に電話をしましたが出ないので、何度も掛け直すととうとう電源が切られてしまいました。
どれだけ車の中で時間が経った事か、一時間は過ぎています。業を煮やし再び電話を掛けましたが音信不通のままです。二人を見失ったのを後悔しましたが今更仕方がありません。
苛立ちを抑えられない私は車を動かし家路につくしかありませんでした。
苛立ちながら車を運転している途中で車を路肩に停めて、私はもう掛けないと誓っていた番号に躊躇しながらも電話を掛けてしまいます。携帯のアドレスには一色(彼女の姓)商会と入れてありますが、それは、万が一、妻に見られてもいいように用心しての事でした。
「来栖です。久しぶりだな。元気だったかい?この街に住んでいるって連絡をくれていたけど、返事しなくて御免な。もし、よかったらこれから会ってくれないか?ちょっと都合が良すぎるかな?」
〖何時か電話くれると思っていた。私のマンションに来てくれてもいいわよ。住所を言うね。〗
私はカーナビに今聞いた住所をインプットしながら、あの時代を思い出します。まだ20代後半の頃、愛し合っていた女性がいました。彼女と知り合う前まで何人かと交際をしましたが、これが恋なのだと教えてくれた女性が、一色亜希(いっしき・あき)でした。
結婚相手はこの人しかいないと思っていましたが若かった私は過ちを犯し、彼女はそれを許してくれなかった。軽い気持ちで別の女性と遊んだのが、ばれてしまったのです。それ
も一度や二度じゃなかったので当然別れることになるが、私は何度も許しを請いましたが駄目でした。
〖凄くあなたを愛していたから、如何(どう)しても許せない!〗彼女が私に告げた最後の言葉です。自分が彼女の気持ちを、どれだけ傷付けてしまったのか、その時にやっと自分自身の愚かさを本当の意味で悟りました。
半年も落ち込み立ち直れないでいる私の耳に聞こえて来たのは、彼女がもう恋人も出来きて幸せそうだと言う話です。【女の割り切り方は凄いんだよ】と、教えてくれたのも彼女でした。
その数年後、愛を育みあった恋人と結ばれた共通の知人から聞かされた時も、大きなショックを受けたものです。私の傷は癒えていなかったのですね。つくづく女々しい男だと思い知りました。そして・・・そんな私を救ってくれたのが妻なのですが・・・。
2015/08/08
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