中23<気持ち>第5回
中23<気持ち>第5回
私(来栖正敏:くるす・まさとし43歳)が単身赴任中に、ばったり会ったのはスーパーで買い物をしている時です。何を食おうかと物色していると〚久し振りね。〛と声を掛けられ振り向くと一色亜希(いっしき・あき40歳)が立っていた。
彼女は別れた時と少しも変わらず、いや、もっと大人の魅力を纏(まと)った姿は美しかった。こんな所で会うなんて、運命的なものさえ感じたものです。時間が経ちわだかまりも消えていた私達は、スーパー内の喫茶店で今の境遇を話し合いました。私が驚いたのは彼女が離婚したと聞いた時です。幸せに暮らしていると思っていただけに飲み込もうとしていたコーヒーが喉で止まり咽そうになるのを、笑いながら見つめる亜希に暗さはありません。
〚夫の仕事でこの街に来て離婚し、そのままここで暮らしているの。ただ子供が出来なかったし気楽なものだわ。〛
亜希は実にあっけらかんとしたものです。
〚正敏さんのせいよ。あの時は本当に苦しかったの。あなたを忘れようとして付き合った人と結婚をしたけど、やはり、そんなの駄目だったわ。〛
悪戯っぽく微笑みながら男殺しの台詞を吐く彼女が悪魔に見えます。私の頭の中はもう、あの時代に戻っています。《亜希の割り切りが早かった訳じゃなかったのか。》
「今でも済まなかったと思っている。」と私がそう言うと、〚そう思っているなら何時か食事でも奢ってね。〛
何日か後に教えてくれた番号に電話をして一緒に食事をしましたが、まさに青春時代の再来です。それでも私の浮気を許さなかった亜希に、妻帯者の私がそれ以上踏み込めなかった。ですが、私の休みの日なんかに部屋を掃除してくれ、食事も作ってくれる彼女と、男と女の関係を結ぶのは自然でした。家から遠く離れ何カ月かに一度位しか帰れませんし、仕事を持つ妻も滅多には来られません。そんな性の渇きを抑えられなかったのです。
〚わたしって悪い女ね。奥さんがいる人とこんな事をしているなんてね。あの時もっとわたしが大人で正敏さんを許せたらよかったのに・・・。〛
私は妻への後ろめたさと、この時間が永遠に続いてくれればいいと思う気持ちが入り乱れて何も答えられません。しかし、こんな状況が長く続く訳がありません。人事異動で本社に戻ることになってしまったのです。私がそれを伝えると亜希は悲しそうに呟きました。
〚こっちで仕事探せばいいのに・・・でも貴方には無理よね・・・分かっているわ。〛
《若かりし頃、亜希から別れを告げられ、今度は私から彼女に告げるのか。本当に縁がな
いのだな》何もかも捨てて、ここに居たいという思いがあったけれど、結局、私には出来なかった。
それから、しばらく連絡がありませんでしたが、帰る数日前に部屋を亜希が訪ねてくれました。引越しの準備が済んだ寒々しい私の部屋の中を見て、綺麗な瞳に涙を浮かべています。
〚本当に行っちゃうのね。寂しい。・・ここに居て欲しい・・・別れたくない・・・。〛
「・・・ごめん・・・それは・・。」
いきなり亜希にビンタをされる。飛び出していった彼女を私は追う事は出来ませんでした。
《追ったら帰れなくなる》一度ならず二度も傷つけてしまった。私も涙がこぼれ出る顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込んで声を出して泣きます。あんなに泣いたのは何時以来だっただろうか。いや初めてだったかもしれない。
2015/08/14
私(来栖正敏:くるす・まさとし43歳)が単身赴任中に、ばったり会ったのはスーパーで買い物をしている時です。何を食おうかと物色していると〚久し振りね。〛と声を掛けられ振り向くと一色亜希(いっしき・あき40歳)が立っていた。
彼女は別れた時と少しも変わらず、いや、もっと大人の魅力を纏(まと)った姿は美しかった。こんな所で会うなんて、運命的なものさえ感じたものです。時間が経ちわだかまりも消えていた私達は、スーパー内の喫茶店で今の境遇を話し合いました。私が驚いたのは彼女が離婚したと聞いた時です。幸せに暮らしていると思っていただけに飲み込もうとしていたコーヒーが喉で止まり咽そうになるのを、笑いながら見つめる亜希に暗さはありません。
〚夫の仕事でこの街に来て離婚し、そのままここで暮らしているの。ただ子供が出来なかったし気楽なものだわ。〛
亜希は実にあっけらかんとしたものです。
〚正敏さんのせいよ。あの時は本当に苦しかったの。あなたを忘れようとして付き合った人と結婚をしたけど、やはり、そんなの駄目だったわ。〛
悪戯っぽく微笑みながら男殺しの台詞を吐く彼女が悪魔に見えます。私の頭の中はもう、あの時代に戻っています。《亜希の割り切りが早かった訳じゃなかったのか。》
「今でも済まなかったと思っている。」と私がそう言うと、〚そう思っているなら何時か食事でも奢ってね。〛
何日か後に教えてくれた番号に電話をして一緒に食事をしましたが、まさに青春時代の再来です。それでも私の浮気を許さなかった亜希に、妻帯者の私がそれ以上踏み込めなかった。ですが、私の休みの日なんかに部屋を掃除してくれ、食事も作ってくれる彼女と、男と女の関係を結ぶのは自然でした。家から遠く離れ何カ月かに一度位しか帰れませんし、仕事を持つ妻も滅多には来られません。そんな性の渇きを抑えられなかったのです。
〚わたしって悪い女ね。奥さんがいる人とこんな事をしているなんてね。あの時もっとわたしが大人で正敏さんを許せたらよかったのに・・・。〛
私は妻への後ろめたさと、この時間が永遠に続いてくれればいいと思う気持ちが入り乱れて何も答えられません。しかし、こんな状況が長く続く訳がありません。人事異動で本社に戻ることになってしまったのです。私がそれを伝えると亜希は悲しそうに呟きました。
〚こっちで仕事探せばいいのに・・・でも貴方には無理よね・・・分かっているわ。〛
《若かりし頃、亜希から別れを告げられ、今度は私から彼女に告げるのか。本当に縁がな
いのだな》何もかも捨てて、ここに居たいという思いがあったけれど、結局、私には出来なかった。
それから、しばらく連絡がありませんでしたが、帰る数日前に部屋を亜希が訪ねてくれました。引越しの準備が済んだ寒々しい私の部屋の中を見て、綺麗な瞳に涙を浮かべています。
〚本当に行っちゃうのね。寂しい。・・ここに居て欲しい・・・別れたくない・・・。〛
「・・・ごめん・・・それは・・。」
いきなり亜希にビンタをされる。飛び出していった彼女を私は追う事は出来ませんでした。
《追ったら帰れなくなる》一度ならず二度も傷つけてしまった。私も涙がこぼれ出る顔を両手で覆い、その場にしゃがみ込んで声を出して泣きます。あんなに泣いたのは何時以来だっただろうか。いや初めてだったかもしれない。
2015/08/14
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