短Ⅱ25《7年前》第2話
短Ⅱ25《7年前》第2話
村田賢(22歳)を雇って二カ月ほど経った頃のことです。その日、妻の由香里(ゆかり:36歳)は外出していて、わたし(加瀬修平:42歳)が店番をしていました。わたしがいるときは、賢は非番です。
近所で電気店を経営している折口浩一さんが、いつものように店に入ってきました。しばらく雑談をしていると、彼が急に妙なことを言い出したのです。
〈この前の木曜だが、どうしてこの店閉まっていたんだい?〉
「木曜・・・何時ごろのことです?」
〈さあ・・何時だったか・・昼の二時くらいだったと思うがなあ。ちょっとうちを出て、この店の前を通りがかったときに、店の戸が閉まっているのが見えたんだよ。中を覗いてみたけど、誰もいなかったような・・・。〉
(おかしいな?・・)とわたしは思いました。昼の二時といえば、まだ娘を幼稚園に迎えにいく時刻でもなく、店には妻の由香里と賢のふたりがいたはずです。どちらかが何かの用事が出来たにしても、残るひとりは店番をしているはずです。それに妻からは何も聞いていません。折口さんとはそのあと、しばらく雑談しましたが、わたしの頭は先ほど引っかかったことを考え続けていました。
その夜、わたしは居間でテレビを見ながら、台所で忙しく食事の用意をしている妻の由香理に、何気なさを装って尋ねました。
「この前の木曜の昼に、店の前を通りがかった折口さんが、店が閉まっているようだった
と言ってたんだが・・・何かあったのかい?」
『ああ・・・はい、娘の真奈の具合がわるいと幼稚園から連絡があったので、賢くんに車を出してもらって、ふたりで迎えに行ったんです。』
「聞いてないよ。」
『でも、たいしたことはなく、結局、病院にも行かずじまいだったの・・それで、あなたには・・。』
由香里は振り向くこともせず、そう説明しました。わたしはきびきびと家事をしている妻の後ろ姿を眺めながら、ぼんやりと不安が胸に広がっていくのを感じていました。心の中
では、(妻の言うことは本当だ!)と主張する声が響いていたのですが、その一方で、(本当だろうか?)と、ぼそぼそ異議を申し立てる声もあったのです。
結婚をしてから、はじめて妻に疑いをもった瞬間でした。もし由香里が嘘をついているとして、それではそのとき由香里は何をしていたのか?一緒にいた賢は?まさか・・いや、そんなはずはない。妻と賢では年が違いすぎる。心の中では嵐が吹き荒れていましたが、顔だけは平然とした表情でわたしは妻を見ます。
妻の由香里は、そのおとなしい性格と同様に、おとなしい、やさしい顔をした女です。どこかにまだ幼げな雰囲気を残していましたが、スタイルはよく、特に胸は豊満でした。年甲斐もないと思いながら、当時のわたしは週に三日は妻を抱いていました。とはいえ、妻の魅力は野の花のようなもので、誰にでも強くうったえかけるものではない。(わたしが惹かれるように、若い賢が妻位の女性に惹かれるようなことはない。)わたしは自分にそう言い聞かせました。
2015/11/15
村田賢(22歳)を雇って二カ月ほど経った頃のことです。その日、妻の由香里(ゆかり:36歳)は外出していて、わたし(加瀬修平:42歳)が店番をしていました。わたしがいるときは、賢は非番です。
近所で電気店を経営している折口浩一さんが、いつものように店に入ってきました。しばらく雑談をしていると、彼が急に妙なことを言い出したのです。
〈この前の木曜だが、どうしてこの店閉まっていたんだい?〉
「木曜・・・何時ごろのことです?」
〈さあ・・何時だったか・・昼の二時くらいだったと思うがなあ。ちょっとうちを出て、この店の前を通りがかったときに、店の戸が閉まっているのが見えたんだよ。中を覗いてみたけど、誰もいなかったような・・・。〉
(おかしいな?・・)とわたしは思いました。昼の二時といえば、まだ娘を幼稚園に迎えにいく時刻でもなく、店には妻の由香里と賢のふたりがいたはずです。どちらかが何かの用事が出来たにしても、残るひとりは店番をしているはずです。それに妻からは何も聞いていません。折口さんとはそのあと、しばらく雑談しましたが、わたしの頭は先ほど引っかかったことを考え続けていました。
その夜、わたしは居間でテレビを見ながら、台所で忙しく食事の用意をしている妻の由香理に、何気なさを装って尋ねました。
「この前の木曜の昼に、店の前を通りがかった折口さんが、店が閉まっているようだった
と言ってたんだが・・・何かあったのかい?」
『ああ・・・はい、娘の真奈の具合がわるいと幼稚園から連絡があったので、賢くんに車を出してもらって、ふたりで迎えに行ったんです。』
「聞いてないよ。」
『でも、たいしたことはなく、結局、病院にも行かずじまいだったの・・それで、あなたには・・。』
由香里は振り向くこともせず、そう説明しました。わたしはきびきびと家事をしている妻の後ろ姿を眺めながら、ぼんやりと不安が胸に広がっていくのを感じていました。心の中
では、(妻の言うことは本当だ!)と主張する声が響いていたのですが、その一方で、(本当だろうか?)と、ぼそぼそ異議を申し立てる声もあったのです。
結婚をしてから、はじめて妻に疑いをもった瞬間でした。もし由香里が嘘をついているとして、それではそのとき由香里は何をしていたのか?一緒にいた賢は?まさか・・いや、そんなはずはない。妻と賢では年が違いすぎる。心の中では嵐が吹き荒れていましたが、顔だけは平然とした表情でわたしは妻を見ます。
妻の由香里は、そのおとなしい性格と同様に、おとなしい、やさしい顔をした女です。どこかにまだ幼げな雰囲気を残していましたが、スタイルはよく、特に胸は豊満でした。年甲斐もないと思いながら、当時のわたしは週に三日は妻を抱いていました。とはいえ、妻の魅力は野の花のようなもので、誰にでも強くうったえかけるものではない。(わたしが惹かれるように、若い賢が妻位の女性に惹かれるようなことはない。)わたしは自分にそう言い聞かせました。
2015/11/15
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