『美鈴(みすず)』 1章その26
名C美鈴(みすず)その26
しばらくして美鈴の方から『そっかだけ?』と私に聞いてきます。「そっか以外に言えないさ・・・俺が巻いた種なんだから。」私がそう言うと美鈴は何も答えませんでした。しばらく何もしゃべらずに歩いていると美鈴の方から話しかけてきました。
『ねっパパ?ホテルに行かない?』
突然の思いもよらない美鈴からの言葉で私は一瞬立ち止まってしまいました。
「え?ホテルに行くのか?」
『・・・うん ダメかな?』
「い・・・い・・いや・・いいけど。」私は焦って言葉がすんなりとは出ませんでした。
『あのね?ラブホテルテルじゃなくって普通のホテルに今夜泊まろうよ。』
「え??どうして??」
私がそう言うと美鈴はスマホをバックから出して娘の花帆に電話をしました。花帆との会話はまるで友達同士のようにキャーキャーとはしゃぐようでした。
電話を切った美鈴は『パパとラブラブで頑張ってね~だって。』と私に苦笑いをしてそう言いました。美鈴がタクシーを止め『○○○ホテルまで行ってください。』と運転手に告げました。そのホテルは夜景が展望できると有名なホテルです。私はタクシーの中で流れる夜のネオンを見ながらどうして美鈴はあのホテルへと・・・そう考えました。
理由はきっと木嶋とそのホテルに泊まったってことは間違いありません。しかしどうして美鈴がそこへ行きたいのか?・・・・私は目を閉じて美鈴との沈黙の時間を過ごすのでした。ホテルに着き私がフロントに行って「今日泊まりたいのですが?」訊いていると美鈴が横から『あの~バスルームから夜景が見えるお部屋ってありますよね?空いていますか?』とフロントに尋ねました。
空いているとのことで部屋へ案内され、中に入り私は美鈴に「どうしてこのホテルに来たの?」と尋ねると美鈴は『わかんないけど、パパと来てみたかった。』と言って『あ!そうそう!!パパ?ここのお風呂凄いんだよ!』と私の手を引いてまるではしゃいだ子供用にバスルームへと私を連れて行くのです。
バスルームは全面ガラス張りを感じさせるほどに街の夜景が一望できるほどでした。ここで美鈴は木嶋と・・・そんな思いが私の頭の中を過ぎります。美鈴は夜景を見ながら「綺麗だねぇ~。」と私にそう言いましたが、私はそんな美鈴に笑顔すら作ることは出来ませんでした。
バスルームから逃げるように部屋へ戻ると、ベッドルームからも夜景が一望できそこには二つのベッドが並んでいます。私の目に飛び込んで来たのはとても私には耐えることの出来ない生々しさの感じられる光景でした。
立ちすくむ私に美鈴が『パパ?このお部屋かどうかはわからないけど、この間ここへ木嶋君と泊まったの。』美鈴は私の目を見てそう言いました。私はそうだとは解っていましたが、マジマジとその部屋で美鈴の口からそう言われると、愕然としました。
今、目の前にいる美鈴は私以外の男とこの同じ夜景を見ながらどんな会話をしたのか・・・そしてこのベッドで・・・そして・・・あのバスルームで・・・色んな情景が私の身体の心底を引きちぎろうと攻め立てます。
私はその場に崩れ去り、唇をかみ締めただ拳を握り締めながら、目からこぼれ落ちる涙を抑えるのに精一杯でした。美鈴は私よりもあの男を選んだ。負けた・・・悔しい・・・悲しい・・・そして私さへ美鈴を焚き付けなければ、そんな後悔・・・何を思ってみても、ここで起こってしまった現実を無くすことはできない・・・そして美鈴の心の中からも消えることはない・・・そして私の心の中からも・・・私は自分を責め続けました。
そんなときでした『パパ・・・ごめんね。』愕然と崩れ落ち、床に膝を着く私の背中から美鈴がそう言って私を抱きしめてくれます。その瞬間、私が我慢していた感情が崩れさり、大粒の涙が何度も何度も頬を伝いました。
美鈴に抱きしめられながら泣き崩れる私に妻は優しく私の頬を伝う涙に何度もキスをしてくれました。二人共言葉もなく、ただ時間だけが過ぎて行く中私の心の中で本当に美鈴の存在が大きいものだと痛感していました。
そんな私に美鈴が『パパ?』と私を覗き込み囁くように呼びました。
けれど私は美鈴の顔を見ることは出来ずに、ただ肩を落とし俯くたけでした。
『今までこんなパパを見たことなんてなかった・・・本当に私は悪い奥さんだね・・・。』
「・・・・・・」
『パパと出会ってから私は凄く幸せだったよ。けどね・・・パパがあんなに怖い顔して怒るの始めて見たかな・・・凄く・・・怖かった。』
「・・・・・・」
『パパから逃げ出したい・・・って思ったよ。』
私の髪の毛を美鈴は子供を慰めるような仕草で撫でながら私に話し続けます。
『木嶋君はね、そんなとき本当に優しく私を支えてくれた・・・木嶋君と話すだけでパパとの嫌なことを忘れることができたの。』
「・・・・・・」
『今まで子供のことや、いろんなことで私が迷ったり落ち込んだりしても、いつも支えてくれたのはパパだった・・・。』
『そのパパが私のことを憎んでいるように感じるのは本当に・・・私も辛かったの・・・。』
美鈴もそう言って自分の涙を手で拭いていました。
『パパと話し合って木嶋君の所へ行くときは、本当にお別れするつもりだったの・・・。』
『その時、木嶋君にすべて経緯を話したの。勿論最初は私も木嶋君を私達夫婦の刺激にするためにってこともね・・・。』
『木嶋君はそれを聞いてね・・・最初は少し怒ったようだった・・・けど出会うきっかけはどうであれ今の私の気持ちが一番大事って言ってくれた。』
私は美鈴に抱かれながら話を聞きます。
『私ね・・・勇気を出して今回のことで迷惑かけてごめんなさいって謝った。そしてもう遭わないって言ったの・・・けど・・・けどね・・・。』
美鈴はこみ上げてくる気持ちを抑えるように涙しながら、私の手を取り煌(きらめ)くような夜景が目の前に見えるベッドへと私を座らせ、そして続けます。
『木嶋君が私にそれでいいのか?って何度も何度も私に言うの・・・私にこの先ずっと自分を押し殺してパパと花帆と過ごすのか?ってね・・・。』
「そっか・・・。」
私はやっと美鈴に言葉を返すことが出来ました。
2014/10/20
しばらくして美鈴の方から『そっかだけ?』と私に聞いてきます。「そっか以外に言えないさ・・・俺が巻いた種なんだから。」私がそう言うと美鈴は何も答えませんでした。しばらく何もしゃべらずに歩いていると美鈴の方から話しかけてきました。
『ねっパパ?ホテルに行かない?』
突然の思いもよらない美鈴からの言葉で私は一瞬立ち止まってしまいました。
「え?ホテルに行くのか?」
『・・・うん ダメかな?』
「い・・・い・・いや・・いいけど。」私は焦って言葉がすんなりとは出ませんでした。
『あのね?ラブホテルテルじゃなくって普通のホテルに今夜泊まろうよ。』
「え??どうして??」
私がそう言うと美鈴はスマホをバックから出して娘の花帆に電話をしました。花帆との会話はまるで友達同士のようにキャーキャーとはしゃぐようでした。
電話を切った美鈴は『パパとラブラブで頑張ってね~だって。』と私に苦笑いをしてそう言いました。美鈴がタクシーを止め『○○○ホテルまで行ってください。』と運転手に告げました。そのホテルは夜景が展望できると有名なホテルです。私はタクシーの中で流れる夜のネオンを見ながらどうして美鈴はあのホテルへと・・・そう考えました。
理由はきっと木嶋とそのホテルに泊まったってことは間違いありません。しかしどうして美鈴がそこへ行きたいのか?・・・・私は目を閉じて美鈴との沈黙の時間を過ごすのでした。ホテルに着き私がフロントに行って「今日泊まりたいのですが?」訊いていると美鈴が横から『あの~バスルームから夜景が見えるお部屋ってありますよね?空いていますか?』とフロントに尋ねました。
空いているとのことで部屋へ案内され、中に入り私は美鈴に「どうしてこのホテルに来たの?」と尋ねると美鈴は『わかんないけど、パパと来てみたかった。』と言って『あ!そうそう!!パパ?ここのお風呂凄いんだよ!』と私の手を引いてまるではしゃいだ子供用にバスルームへと私を連れて行くのです。
バスルームは全面ガラス張りを感じさせるほどに街の夜景が一望できるほどでした。ここで美鈴は木嶋と・・・そんな思いが私の頭の中を過ぎります。美鈴は夜景を見ながら「綺麗だねぇ~。」と私にそう言いましたが、私はそんな美鈴に笑顔すら作ることは出来ませんでした。
バスルームから逃げるように部屋へ戻ると、ベッドルームからも夜景が一望できそこには二つのベッドが並んでいます。私の目に飛び込んで来たのはとても私には耐えることの出来ない生々しさの感じられる光景でした。
立ちすくむ私に美鈴が『パパ?このお部屋かどうかはわからないけど、この間ここへ木嶋君と泊まったの。』美鈴は私の目を見てそう言いました。私はそうだとは解っていましたが、マジマジとその部屋で美鈴の口からそう言われると、愕然としました。
今、目の前にいる美鈴は私以外の男とこの同じ夜景を見ながらどんな会話をしたのか・・・そしてこのベッドで・・・そして・・・あのバスルームで・・・色んな情景が私の身体の心底を引きちぎろうと攻め立てます。
私はその場に崩れ去り、唇をかみ締めただ拳を握り締めながら、目からこぼれ落ちる涙を抑えるのに精一杯でした。美鈴は私よりもあの男を選んだ。負けた・・・悔しい・・・悲しい・・・そして私さへ美鈴を焚き付けなければ、そんな後悔・・・何を思ってみても、ここで起こってしまった現実を無くすことはできない・・・そして美鈴の心の中からも消えることはない・・・そして私の心の中からも・・・私は自分を責め続けました。
そんなときでした『パパ・・・ごめんね。』愕然と崩れ落ち、床に膝を着く私の背中から美鈴がそう言って私を抱きしめてくれます。その瞬間、私が我慢していた感情が崩れさり、大粒の涙が何度も何度も頬を伝いました。
美鈴に抱きしめられながら泣き崩れる私に妻は優しく私の頬を伝う涙に何度もキスをしてくれました。二人共言葉もなく、ただ時間だけが過ぎて行く中私の心の中で本当に美鈴の存在が大きいものだと痛感していました。
そんな私に美鈴が『パパ?』と私を覗き込み囁くように呼びました。
けれど私は美鈴の顔を見ることは出来ずに、ただ肩を落とし俯くたけでした。
『今までこんなパパを見たことなんてなかった・・・本当に私は悪い奥さんだね・・・。』
「・・・・・・」
『パパと出会ってから私は凄く幸せだったよ。けどね・・・パパがあんなに怖い顔して怒るの始めて見たかな・・・凄く・・・怖かった。』
「・・・・・・」
『パパから逃げ出したい・・・って思ったよ。』
私の髪の毛を美鈴は子供を慰めるような仕草で撫でながら私に話し続けます。
『木嶋君はね、そんなとき本当に優しく私を支えてくれた・・・木嶋君と話すだけでパパとの嫌なことを忘れることができたの。』
「・・・・・・」
『今まで子供のことや、いろんなことで私が迷ったり落ち込んだりしても、いつも支えてくれたのはパパだった・・・。』
『そのパパが私のことを憎んでいるように感じるのは本当に・・・私も辛かったの・・・。』
美鈴もそう言って自分の涙を手で拭いていました。
『パパと話し合って木嶋君の所へ行くときは、本当にお別れするつもりだったの・・・。』
『その時、木嶋君にすべて経緯を話したの。勿論最初は私も木嶋君を私達夫婦の刺激にするためにってこともね・・・。』
『木嶋君はそれを聞いてね・・・最初は少し怒ったようだった・・・けど出会うきっかけはどうであれ今の私の気持ちが一番大事って言ってくれた。』
私は美鈴に抱かれながら話を聞きます。
『私ね・・・勇気を出して今回のことで迷惑かけてごめんなさいって謝った。そしてもう遭わないって言ったの・・・けど・・・けどね・・・。』
美鈴はこみ上げてくる気持ちを抑えるように涙しながら、私の手を取り煌(きらめ)くような夜景が目の前に見えるベッドへと私を座らせ、そして続けます。
『木嶋君が私にそれでいいのか?って何度も何度も私に言うの・・・私にこの先ずっと自分を押し殺してパパと花帆と過ごすのか?ってね・・・。』
「そっか・・・。」
私はやっと美鈴に言葉を返すことが出来ました。
2014/10/20
- 関連記事
-
- 『美鈴(みすず)』 1章その19 (2014/10/04)
- 『美鈴(みすず)』 1章その20 (2014/10/06)
- 『美鈴(みすず)』 1章その21 (2014/10/08)
- 『美鈴(みすず)』 1章その22 (2014/10/09)
- 『美鈴(みすず)』 1章その23 (2014/10/11)
- 『美鈴(みすず)』 1章その24 (2014/10/15)
- 『美鈴(みすず)』 1章その25 (2014/10/18)
- 『美鈴(みすず)』 1章その26 (2014/10/20)
- 『美鈴(みすず)』 1章その27 (2014/10/23)
- 『美鈴(みすず)』 1章その28 (2014/10/25)
- 『美鈴(みすず)』 1章その29 (2014/10/27)
- 『美鈴(みすず)』 2章その1 (2014/10/29)
- 『美鈴(みすず)』 2章その2 (2014/11/01)
- 『美鈴(みすず)』 2章その3 (2014/11/08)
- 『美鈴(みすず)』 2章その4 (2014/11/13)
コメント
コメントの投稿