『美鈴(みすず)』 1章その20
名C美鈴(みすず)その20
「どうなんだ?好きなのか?」
『・・・わからない・・。』
「わからないのに俺を裏切ったのか?」
『わからないの・・・だけど・・。』
「だけど?」
『・・パパと結婚してから・・始めて・・抱かれても・・いいって心から・・・思った。今の・・私には・・大切な人です。』
美鈴はゆっくりと詰まるようにそう言いました。私は最愛の美鈴から口にされたその言葉に愕然とし、心の中で今まで築き上げてきたのが一瞬に音を発てて崩れて行き、私自身もその場に崩れ落ちました。
当時の私には、ことの発端が私にあったなどと考えることもなく、美鈴からのその言葉を聞いて頭に浮かんだことは、自分を棚においてすべてあの男のせいだと思えたのです。その後は、美鈴とは無言のまま注文をしたものを黙々と食べたが、味などは全く覚えていない。店を出た二人は少し離れて歩き家へと帰りました。
重苦しい雰囲気のまま家に着くと、娘の花帆が〚お帰りなさい。あれ?どうしたの?二人共暗い顔してる。〛と私達に言います。美鈴は『ちょっとパパと喧嘩しちゃった。』と舌を出して娘にそういい、奥の洗面所へと向かいました。〚パパ、ママを泣かしちゃダメだよ!大事にしないとそのうち熟年離婚されるよ。〛と私に笑いながら、〚ママを手伝ってくる。〛と言いました。「そうだな。」と一言しか娘に返せませんでした。
美鈴はだまって花帆が食べ終わった洗い物をいつもと変わらぬように娘としていました。娘と何やら楽しげに話しながら洗い物をしている美鈴の心の中には私以外の男の存在があるのかと思うと、いてもたってもいられなくなり、私は自分の部屋へと行きました。眠ることも出来ずに布団に入っていた私は、花帆が寝静まった頃に美鈴が寝ている寝室へと向かいました。
寝室に入ると今まで二人で寝ていたクイーンサイズのベッドに美鈴は一人寝ていました。「寝たのか?」と美鈴に問いかけると、しばらくして『ううん。』と美鈴が答えます。「ママ?一緒に寝てもいいか?」と私が言うと美鈴は何も言わずに少しベッドの端へと移動しました。
私は美鈴の横に入り、私に背を向けている美鈴を抱きしめようと後ろから肩を抱こうと美鈴に触れた瞬間に美鈴が一瞬ビクッとなりました。「抱いてもいいか?」と聞くと美鈴は無言で私に背を向けていた身体を仰向けにし、目を閉じています。
私は美鈴に覆い被さるように抱きしめキスをします。いつもなら美鈴も私の舌に自分の舌を絡めてくるのですが、自分から絡めて来ることはありませんでした。美鈴に愛撫をしても身体は一瞬ビクッとする。美鈴の下着の中に手を入れて陰部に触れたときに、私は美鈴の心の中を痛感しました。
いつもなら潤んでいるはずの美鈴の陰部は潤んでいることはありませんでした。何とも言えない孤独感と情けなさが私を襲い、そのまま何も言えずに美鈴から離れベッドから出ます。
『・・・パパ・・・ごめんなさい。』
美鈴のその一言を聞いて寝室を後にしました。自分の部屋に戻った私は、美鈴があんなになってしまったのはあの男のせいだと怒りがこみ上げてきました。
その日以来、美鈴とは家庭内別居と言うのでしょうか、殆どしゃべることもなく私の家政婦さんみたいでした。そんな夫婦生活が続いていた頃、出張先からの帰りに駅に着いて改札口を出て歩いていると、私の前から見た顔が歩いて来ました。一度しか見ていませんでしたが、それは間違いなく忘れることの出来ない美鈴が抱かれた男(木嶋)です。私は睨みつけるように前から歩いて来る木嶋を見続けました。木嶋も気が付いたのか私を見て軽く会釈をしました。その瞬間、私は走り寄り、無我夢中で木嶋を一発殴っていました。
「おい!人の嫁さんを弄(もてあそ)んで楽しいか?」
しかし、殴られたのに彼は平気な顔をして
〔ここでは人も多いので、今からお時間ありませんか?」
「何を言っているんだ?君のせいで俺達夫婦はむちゃくちゃだ!」
〔すみません・・・そのことで少しお話を?」
「話なんてここですればいいだろ!とにかくどうしてくれるんだ!!」
私は冷静さを失い、駅前で彼に怒鳴り散らしていました。それから、木嶋に駅前の公園まで連れて行かれました。しかし、公園へ付くなり怒りが収まらない私はまた木嶋を殴りつけます。木嶋は〔殴られても仕方ないと思っています。家庭のある女性を好きになったのは私ですから・・。〕と冷静な口調で私の目を見て言いました。私は余計にその態度が腹立たしく思えてなりません。しかし、相手が冷静であればあるほど自分の情けなさがこみ上げて来ました。
そう感じた私は木嶋に「あんたと話をすることなんかないから帰る。」と言うと彼は
〔奥さんを責めないで下さい。悪いのは私なんです。〕
「当たり前だろ!人の妻を誑(たぶら)かしたんだからな!」
〔いいえ誑かせたりしていません。私は心から美鈴さんが好きです。〕
「よくもそんなことを旦那の前で言えるな!!」
〔ご主人少し考えて見てください。〕
「考える?何を考えるんだ。そんなことよりこれ以上妻に近寄るな!!解ったか!!」
〔・・・・〕
「二度と嫁に会うな!!」
私がそう言うと、木嶋は自身に満ち溢れた態度で私にこう言いました。
〔ご主人!今私が美鈴さんを支えなければ誰が美鈴さんを支えるのですか?〕
「は~?君は何を言っているんだ!!俺が支えるさ!」
〔支えていますか?私にはそう思えません。美鈴さんはあなたから逃げているんですよ?〕
「逃げている?」
〔美鈴さんは一番信用して欲しいあなたに責められ続けてあなたから逃げたんですよ。私は妻も子供もいません。だから真剣に美鈴さんをあなたから奪いたいと必死です。〕
「何を一人でごちゃごちゃ言っているんだ!」
〔今のあなたは美鈴さんには必要のない人ですよ。〕
その言葉を聞いて怒り心頭に発した私は木嶋を数発殴り倒れ込んだ木嶋を残してその場を後にしました。〔美鈴には必要のない人。〕と、彼に冷静にそう言われ私は完敗だと痛感しました。家に帰る気分にも成れずにその夜は酒を浴びるように飲みました。その日から私と木嶋との戦いが始まり、それが美鈴を余計に苦しめることになるとは当時の私には、まったく解っていませんでした。
2014/10/06
「どうなんだ?好きなのか?」
『・・・わからない・・。』
「わからないのに俺を裏切ったのか?」
『わからないの・・・だけど・・。』
「だけど?」
『・・パパと結婚してから・・始めて・・抱かれても・・いいって心から・・・思った。今の・・私には・・大切な人です。』
美鈴はゆっくりと詰まるようにそう言いました。私は最愛の美鈴から口にされたその言葉に愕然とし、心の中で今まで築き上げてきたのが一瞬に音を発てて崩れて行き、私自身もその場に崩れ落ちました。
当時の私には、ことの発端が私にあったなどと考えることもなく、美鈴からのその言葉を聞いて頭に浮かんだことは、自分を棚においてすべてあの男のせいだと思えたのです。その後は、美鈴とは無言のまま注文をしたものを黙々と食べたが、味などは全く覚えていない。店を出た二人は少し離れて歩き家へと帰りました。
重苦しい雰囲気のまま家に着くと、娘の花帆が〚お帰りなさい。あれ?どうしたの?二人共暗い顔してる。〛と私達に言います。美鈴は『ちょっとパパと喧嘩しちゃった。』と舌を出して娘にそういい、奥の洗面所へと向かいました。〚パパ、ママを泣かしちゃダメだよ!大事にしないとそのうち熟年離婚されるよ。〛と私に笑いながら、〚ママを手伝ってくる。〛と言いました。「そうだな。」と一言しか娘に返せませんでした。
美鈴はだまって花帆が食べ終わった洗い物をいつもと変わらぬように娘としていました。娘と何やら楽しげに話しながら洗い物をしている美鈴の心の中には私以外の男の存在があるのかと思うと、いてもたってもいられなくなり、私は自分の部屋へと行きました。眠ることも出来ずに布団に入っていた私は、花帆が寝静まった頃に美鈴が寝ている寝室へと向かいました。
寝室に入ると今まで二人で寝ていたクイーンサイズのベッドに美鈴は一人寝ていました。「寝たのか?」と美鈴に問いかけると、しばらくして『ううん。』と美鈴が答えます。「ママ?一緒に寝てもいいか?」と私が言うと美鈴は何も言わずに少しベッドの端へと移動しました。
私は美鈴の横に入り、私に背を向けている美鈴を抱きしめようと後ろから肩を抱こうと美鈴に触れた瞬間に美鈴が一瞬ビクッとなりました。「抱いてもいいか?」と聞くと美鈴は無言で私に背を向けていた身体を仰向けにし、目を閉じています。
私は美鈴に覆い被さるように抱きしめキスをします。いつもなら美鈴も私の舌に自分の舌を絡めてくるのですが、自分から絡めて来ることはありませんでした。美鈴に愛撫をしても身体は一瞬ビクッとする。美鈴の下着の中に手を入れて陰部に触れたときに、私は美鈴の心の中を痛感しました。
いつもなら潤んでいるはずの美鈴の陰部は潤んでいることはありませんでした。何とも言えない孤独感と情けなさが私を襲い、そのまま何も言えずに美鈴から離れベッドから出ます。
『・・・パパ・・・ごめんなさい。』
美鈴のその一言を聞いて寝室を後にしました。自分の部屋に戻った私は、美鈴があんなになってしまったのはあの男のせいだと怒りがこみ上げてきました。
その日以来、美鈴とは家庭内別居と言うのでしょうか、殆どしゃべることもなく私の家政婦さんみたいでした。そんな夫婦生活が続いていた頃、出張先からの帰りに駅に着いて改札口を出て歩いていると、私の前から見た顔が歩いて来ました。一度しか見ていませんでしたが、それは間違いなく忘れることの出来ない美鈴が抱かれた男(木嶋)です。私は睨みつけるように前から歩いて来る木嶋を見続けました。木嶋も気が付いたのか私を見て軽く会釈をしました。その瞬間、私は走り寄り、無我夢中で木嶋を一発殴っていました。
「おい!人の嫁さんを弄(もてあそ)んで楽しいか?」
しかし、殴られたのに彼は平気な顔をして
〔ここでは人も多いので、今からお時間ありませんか?」
「何を言っているんだ?君のせいで俺達夫婦はむちゃくちゃだ!」
〔すみません・・・そのことで少しお話を?」
「話なんてここですればいいだろ!とにかくどうしてくれるんだ!!」
私は冷静さを失い、駅前で彼に怒鳴り散らしていました。それから、木嶋に駅前の公園まで連れて行かれました。しかし、公園へ付くなり怒りが収まらない私はまた木嶋を殴りつけます。木嶋は〔殴られても仕方ないと思っています。家庭のある女性を好きになったのは私ですから・・。〕と冷静な口調で私の目を見て言いました。私は余計にその態度が腹立たしく思えてなりません。しかし、相手が冷静であればあるほど自分の情けなさがこみ上げて来ました。
そう感じた私は木嶋に「あんたと話をすることなんかないから帰る。」と言うと彼は
〔奥さんを責めないで下さい。悪いのは私なんです。〕
「当たり前だろ!人の妻を誑(たぶら)かしたんだからな!」
〔いいえ誑かせたりしていません。私は心から美鈴さんが好きです。〕
「よくもそんなことを旦那の前で言えるな!!」
〔ご主人少し考えて見てください。〕
「考える?何を考えるんだ。そんなことよりこれ以上妻に近寄るな!!解ったか!!」
〔・・・・〕
「二度と嫁に会うな!!」
私がそう言うと、木嶋は自身に満ち溢れた態度で私にこう言いました。
〔ご主人!今私が美鈴さんを支えなければ誰が美鈴さんを支えるのですか?〕
「は~?君は何を言っているんだ!!俺が支えるさ!」
〔支えていますか?私にはそう思えません。美鈴さんはあなたから逃げているんですよ?〕
「逃げている?」
〔美鈴さんは一番信用して欲しいあなたに責められ続けてあなたから逃げたんですよ。私は妻も子供もいません。だから真剣に美鈴さんをあなたから奪いたいと必死です。〕
「何を一人でごちゃごちゃ言っているんだ!」
〔今のあなたは美鈴さんには必要のない人ですよ。〕
その言葉を聞いて怒り心頭に発した私は木嶋を数発殴り倒れ込んだ木嶋を残してその場を後にしました。〔美鈴には必要のない人。〕と、彼に冷静にそう言われ私は完敗だと痛感しました。家に帰る気分にも成れずにその夜は酒を浴びるように飲みました。その日から私と木嶋との戦いが始まり、それが美鈴を余計に苦しめることになるとは当時の私には、まったく解っていませんでした。
2014/10/06
- 関連記事
-
- 『美鈴(みすず)』 1章その13 (2014/08/28)
- 『美鈴(みすず)』 1章その14 (2014/08/31)
- 『美鈴(みすず)』 1章その15 (2014/09/03)
- 『美鈴(みすず)』 1章その16 (2014/09/13)
- 『美鈴(みすず)』 1章その17 (2014/09/19)
- 『美鈴(みすず)』 1章その18 (2014/09/27)
- 『美鈴(みすず)』 1章その19 (2014/10/04)
- 『美鈴(みすず)』 1章その20 (2014/10/06)
- 『美鈴(みすず)』 1章その21 (2014/10/08)
- 『美鈴(みすず)』 1章その22 (2014/10/09)
- 『美鈴(みすず)』 1章その23 (2014/10/11)
- 『美鈴(みすず)』 1章その24 (2014/10/15)
- 『美鈴(みすず)』 1章その25 (2014/10/18)
- 『美鈴(みすず)』 1章その26 (2014/10/20)
- 『美鈴(みすず)』 1章その27 (2014/10/23)
コメント
コメントの投稿