『妻の3年』 vol.28〔孫悟空〕
中D『妻の3年』 vol.28〔孫悟空〕
さすがに月曜日の朝、実花と顔を合わせるのは照れくさかった。実花は何事もなかったかのように、活き活きと設計に取り掛かっていた。珍しくスカートを穿いていた。〚所長、さっき現場から連絡がありまして、午後一で打合せをしたいそうです。〛チラッと実花を見ると少し化粧をしている。多少色気が出てきたのか。それにしても女は恐い。夕べも帰ったときに『実花ちゃんとのデートは楽しかった?』と妻の琴美に言われた時は、キンタマを握り潰されるような恐怖で血の気が引いた。
今朝、また、シャーシャーとした実花を見ると、(俺は、琴美と実花におちょくられているのではないか?)とさえ思った。極めて平静を装ったが、まずい事に、石田は今日も休みだ。実花と二人だけの事務所は気が重い。実花がコーヒーを淹れてきた。
〔昨日はありがとうございました……。〕
実花の顔は、琴美としっかりと連携が取れている顔だ。思わず溜め息が出た。
〔お疲れのようですから、肩でもお揉みします」
お釈迦様の掌の上で、ぐるぐる回っている孫悟空のような心境だった。
〔所長、わたしがいなくなると寂しいですか?〕
「寂しかないよ、次は可愛い娘にきてもらうからいいよ……。」
〔それって、本気(まじ)ですか……。」
実花は私の首をロックして締め上げてきた。背中に乳房の弾力を感じる。
「おまえ、く、苦しいだろ……、やめろよ……。」
〔本気で言ってるんなら、このまま絞め殺します!〕
私は、手を後ろに回してスカートを捲り上げた。
〔何するんですか!セクハラですよ。奥さんに言いますよ!〕と云いながらもその顔は笑っている。
「勝手に言え、おまえ等二人で俺を嵌めやがって……。」
すると実花が抱きついてきた。
「止めろ、誰か来たらどうするんだよ。」
〔誰も、来ませんよ。ちゃんと鍵もかけてあるし。〕
「いいからおまえ、仕事しろよ。」
〔わたし昨日の夜から始めて、完成しました。見てください。〕
本当に設計図は出来上がっていた。もしかして、土曜日のことは実花の芝居だったのだろうか。それにしては演技賞ものだ。しかし、間違いなく完了している。それも、私が思ったとおりの設計図が。だとしたら、ほとんど寝ずに図面を引いていたことになる。
〔昨日の夜から頭がスッキリして、次から次から、構想が浮かんできたんです。所長、誉めてくださいよ。〕
「あっ、ああ、よくやった………。ほんとによくやった。これなら完璧だ。伊藤さんも絶対に気に入る。大丈夫だ!」
〔ホントですか?〕
「ああ、本当だ。よくやった。」
実花の目からは、大粒の涙が溢れていた。
〔もう、九州へ帰ってもいいですか?〕
「だめだ。九州へは帰るな……。」
〔だって、だって・・・帰らないと………。〕
私の胸に顔を埋めて声を上げて泣いた。これほど実花を可愛いと思ったことはなかった。
上げた実花の泣き顔に思いっきりキスをした。力いっぱい抱きしめてやった。実花の代わりはいない。誰にもこの代わりはできないだろう。居なくなった穴は大きい。石田と二人では、とてもやりきれない。
「よく頑張ったな!」
何度も実花を誉めてやった。やっぱりこの娘は笑顔が一番いい。
〔あの、わたしの代わりに一人、面接して欲しい娘が居るんですけど・・・。〕
「だれだ、おまえの友だちか。おまえより可愛い娘ならいいぞ。」
〔またそれですか?懲りませんね。え~と、わたしの大学の同期で、いまはフリーでバイトしているんですが・・・。〕
「いいよ。」あまり気乗りはしなかったが、実花の推薦なら会ってみようと思った。
〔それじゃあ、善は急げで今日の夜にわたしがセットしますから。〕
「合コンするわけじゃないんだから、会社に連れてくればいいじゃないか?」
〔それでもいいんですけど、今週はバイトを休めないらしくて、わたしも今週しか……。〕
「えっ、実花も今週しか居ないのか。そうか……。」
さびしそうに言うと、実花は嬉しそうな顔で言った。
〔ですから、琴美さんに『九州に帰るまでは、パパの事は好きなようにしていい。』って。〕
「そんなこと、琴美が言うわけないだろ。うそだろ……。」
〔ホントです。何なら奥さんに確認してください。それから、愛には、あ、その娘、愛って言う名前なんですけど、絶対にセクハラしちゃあ、ダメですよ!〔
「いいか。俺はおまえにセクハラされたんだぞ……。いつ俺がセクハラした?」
〔こんないい女に、何にもしないのが、セクハラです。〕
実花にも琴美にも、敵わない。
「いいか。その娘をうちの事務所に入れたとしても、おまえは、必ず戻って来るんだぞ。」
実花の目に、大粒の涙が溢れる。絶対に泣かない娘だったのに、こんなに涙もろいとは。またしっかりと抱きしめてやった。これはセクハラだろうか?
2014/10/28
さすがに月曜日の朝、実花と顔を合わせるのは照れくさかった。実花は何事もなかったかのように、活き活きと設計に取り掛かっていた。珍しくスカートを穿いていた。〚所長、さっき現場から連絡がありまして、午後一で打合せをしたいそうです。〛チラッと実花を見ると少し化粧をしている。多少色気が出てきたのか。それにしても女は恐い。夕べも帰ったときに『実花ちゃんとのデートは楽しかった?』と妻の琴美に言われた時は、キンタマを握り潰されるような恐怖で血の気が引いた。
今朝、また、シャーシャーとした実花を見ると、(俺は、琴美と実花におちょくられているのではないか?)とさえ思った。極めて平静を装ったが、まずい事に、石田は今日も休みだ。実花と二人だけの事務所は気が重い。実花がコーヒーを淹れてきた。
〔昨日はありがとうございました……。〕
実花の顔は、琴美としっかりと連携が取れている顔だ。思わず溜め息が出た。
〔お疲れのようですから、肩でもお揉みします」
お釈迦様の掌の上で、ぐるぐる回っている孫悟空のような心境だった。
〔所長、わたしがいなくなると寂しいですか?〕
「寂しかないよ、次は可愛い娘にきてもらうからいいよ……。」
〔それって、本気(まじ)ですか……。」
実花は私の首をロックして締め上げてきた。背中に乳房の弾力を感じる。
「おまえ、く、苦しいだろ……、やめろよ……。」
〔本気で言ってるんなら、このまま絞め殺します!〕
私は、手を後ろに回してスカートを捲り上げた。
〔何するんですか!セクハラですよ。奥さんに言いますよ!〕と云いながらもその顔は笑っている。
「勝手に言え、おまえ等二人で俺を嵌めやがって……。」
すると実花が抱きついてきた。
「止めろ、誰か来たらどうするんだよ。」
〔誰も、来ませんよ。ちゃんと鍵もかけてあるし。〕
「いいからおまえ、仕事しろよ。」
〔わたし昨日の夜から始めて、完成しました。見てください。〕
本当に設計図は出来上がっていた。もしかして、土曜日のことは実花の芝居だったのだろうか。それにしては演技賞ものだ。しかし、間違いなく完了している。それも、私が思ったとおりの設計図が。だとしたら、ほとんど寝ずに図面を引いていたことになる。
〔昨日の夜から頭がスッキリして、次から次から、構想が浮かんできたんです。所長、誉めてくださいよ。〕
「あっ、ああ、よくやった………。ほんとによくやった。これなら完璧だ。伊藤さんも絶対に気に入る。大丈夫だ!」
〔ホントですか?〕
「ああ、本当だ。よくやった。」
実花の目からは、大粒の涙が溢れていた。
〔もう、九州へ帰ってもいいですか?〕
「だめだ。九州へは帰るな……。」
〔だって、だって・・・帰らないと………。〕
私の胸に顔を埋めて声を上げて泣いた。これほど実花を可愛いと思ったことはなかった。
上げた実花の泣き顔に思いっきりキスをした。力いっぱい抱きしめてやった。実花の代わりはいない。誰にもこの代わりはできないだろう。居なくなった穴は大きい。石田と二人では、とてもやりきれない。
「よく頑張ったな!」
何度も実花を誉めてやった。やっぱりこの娘は笑顔が一番いい。
〔あの、わたしの代わりに一人、面接して欲しい娘が居るんですけど・・・。〕
「だれだ、おまえの友だちか。おまえより可愛い娘ならいいぞ。」
〔またそれですか?懲りませんね。え~と、わたしの大学の同期で、いまはフリーでバイトしているんですが・・・。〕
「いいよ。」あまり気乗りはしなかったが、実花の推薦なら会ってみようと思った。
〔それじゃあ、善は急げで今日の夜にわたしがセットしますから。〕
「合コンするわけじゃないんだから、会社に連れてくればいいじゃないか?」
〔それでもいいんですけど、今週はバイトを休めないらしくて、わたしも今週しか……。〕
「えっ、実花も今週しか居ないのか。そうか……。」
さびしそうに言うと、実花は嬉しそうな顔で言った。
〔ですから、琴美さんに『九州に帰るまでは、パパの事は好きなようにしていい。』って。〕
「そんなこと、琴美が言うわけないだろ。うそだろ……。」
〔ホントです。何なら奥さんに確認してください。それから、愛には、あ、その娘、愛って言う名前なんですけど、絶対にセクハラしちゃあ、ダメですよ!〔
「いいか。俺はおまえにセクハラされたんだぞ……。いつ俺がセクハラした?」
〔こんないい女に、何にもしないのが、セクハラです。〕
実花にも琴美にも、敵わない。
「いいか。その娘をうちの事務所に入れたとしても、おまえは、必ず戻って来るんだぞ。」
実花の目に、大粒の涙が溢れる。絶対に泣かない娘だったのに、こんなに涙もろいとは。またしっかりと抱きしめてやった。これはセクハラだろうか?
2014/10/28
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